コメツキガニ

コメツキガニ（米搗蟹）について

コメツキガニ（Scopimera globosa）は、エビ目（十脚目）・スナガニ科に分類される小型のカニです。潮が引いた砂浜で見かけることができ、その独特な生態が特徴です。名前の由来は、求愛行動が米つきに似ていることからきています。ミナミコメツキガニと名前が似ていますが、分類上は異なるグループに属します。

特徴

コメツキガニは、甲羅の大きさが甲長・甲幅ともに10mmほどの小型のカニです。丸みを帯びた薄い甲羅を持ち、脚は甲幅よりも長く伸びています。体色は、背面に灰色や褐色の地に黒や白の小さな斑点が散らばっており、砂浜に紛れる保護色となっています。腹面や鋏の先端は赤紫色を帯びています。鋏は細く、先端が二又のフォーク状になっており、これは砂をすくうのに適した形状です。この鋏で挟まれても痛みはほとんどありません。また、スナガニほどではないものの、複眼が大きく飛び出しているのも特徴の一つです。

分布と生息環境

コメツキガニは、北海道南部から黄海沿岸、台湾、シンガポールまで、北西太平洋の熱帯・温帯域に広く分布しています。主に河口や内湾の砂浜に生息しており、潮間帯に深さ10-20cmほどの巣穴を掘ります。潮が引いた砂浜に数ミリから1センチほどの穴が多数あり、その周囲に砂団子が無数にあれば、そこはコメツキガニの生息地である可能性が高いです。浅い水たまりのある場所では、決まった巣穴を持たずに徘徊する個体も見られます。スナガニとは異なり、比較的汚染の進んだ海岸でも生息できますが、泥状の場所には生息しません。

行動

昼間に潮が引くと、巣穴から砂をかき出しながら姿を現し、活動を開始します。体表の模様は砂浜に溶け込む保護色となっており、遠目には砂の塊が動いているように見えることがあります。驚くとすぐに巣穴に逃げ込みますが、水たまりにいる個体はその場で体をねじらせて砂に潜ります。走って逃げる個体もいれば、他の個体の巣穴に逃げ込んで追い出され、逃げ惑う個体もいます。しかし、警戒心はスナガニほど強くなく、しばらく動かずに待っていると、数分で姿を現します。

求愛行動

春から夏にかけては、オスが背伸びをして両方のはさみを振り下ろすウェービングと呼ばれる求愛行動が見られます。この行動が、臼と杵で米をつく動作に似ていることが、和名の由来となっています。

食性

コメツキガニは、砂中の有機物やプランクトンを餌としています。足元の砂を鋏脚でつまんで口に入れ、砂粒の中から餌を濾過摂食します。餌を濾した残りの砂は、口の上部に丸く固め、鋏脚で切り取って足元に捨てます。この行動を繰り返すため、巣穴の周りには小さな砂団子が放射状に多数残されます。

人間との関わり

コメツキガニは個体数が多く、捕獲も容易なため、地域によってはクロダイなどの釣り餌として利用されることがあります。ただし、サイズがあまりにも小さいため、食用として利用されることはありません。

参考文献

「原色日本大型甲殻類図鑑 II」三宅貞祥 保育社 ISBN 4-586-30063-9
「川の生き物図鑑 鹿児島の水辺から」鹿児島の自然を記録する会編 南方新社 ISBN 4-931376-69-X

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