スパーフベド

スパーフベド：古代ペルシアの軍司令官

スパーフベド（Spāhbed）は、中世ペルシア語で「軍司令官」を意味する称号であり、主にサーサーン朝で使用されました。その起源は古代ペルシア語のスパーダパティ（spādhapati、「軍隊の長」）に遡ると考えられています。本記事では、スパーフベドの歴史的変遷、サーサーン朝における役割、イスラム時代以降の展開、そして周辺地域への影響について詳しく解説します。

サーサーン朝におけるスパーフベド

サーサーン朝では、スパーフベドは重要な軍事的な地位でした。しかし、同時代の史料は少なく、その実態は必ずしも明確ではありません。近年発見された碑文から、アルダシール1世やナルセ1世の時代にもスパーフベドが存在していたことが確認されています。

ホスロー1世（531年-579年）の時代には、軍制改革が行われ、全国を東西南北の4つの方位に分割し、それぞれにスパーフベドを配置したとされています。この改革により、単独の最高司令官を廃止し、各地域に責任を持つ司令官を置くことで、軍事力の分散と効率化を図ったと考えられます。各方位のスパーフベドは以下の通りです。

東のスパーフベド（kust ī khwarāsān spāhbed）
南のスパーフベド（kust ī nēmrōz spāhbed）
西のスパーフベド（kust ī khwarbārān spāhbed）
北のスパーフベド（kust ī abāxtar spāhbed）

近年発見された印章から、ホスロー1世とその後のホルミズド4世の時代にもスパーフベドが存在していたことが裏付けられています。ただし、スパーフベドは他の地位や称号と兼任されることが多かったため、文献史料からその全体像を把握することは困難です。

イスラム時代以降のスパーフベド

イスラム教徒によるペルシア征服後、ホラーサーンのスパーフベドはタバリスターンの山岳地帯に後退し、Dabuyid朝を成立させました。彼らはアラブ人に対して貢物を納めることで、タバリスターンの実質的な独立を維持し、独自のコインを鋳造しました。Dabuyid朝は、759年から761年にアッバース朝に征服されるまでタバリスターンを支配しました。

アスパーフバド（ispahbadh）という称号は、カーレーン家やバーワンド朝など、タバリスターンの他の地方勢力によっても使用されました。また、中央アジアのソグド人の間でも使用され、バルフやナサの領主がアスパーフバドを名乗っていました。

周辺地域への影響

スパーフベドの称号は、周辺地域にも影響を与えました。アルメニアでは、[a]parapetまたはaspahapetの形態で軍司令官の称号として採用されました。グルジア（ジョージア）では、spaspetという称号が創設され、軍事だけでなく民政にも権能を持つ地位として存続しました。

現代におけるスパーフベド

20世紀には、パフラヴィー朝によって、スパーフベドはsepahbodという現代ペルシア語形で復活し、中将相当の地位として使用されました。

スパーフベドは、古代ペルシアに起源を持つ軍事的な称号であり、サーサーン朝時代に重要な役割を果たしました。イスラム時代以降も地域的な称号として命脈を保ち、周辺地域にも影響を与えました。その歴史的変遷を理解することは、古代ペルシアの軍事制度や社会構造を理解する上で重要です。

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