スプリングカメラ

スプリングカメラとは

スプリングカメラは、フォールディングカメラの一種で、レンズをカメラボディ内に収納することで携帯性を高めたカメラです。最大の特徴は、収納状態から撮影準備状態へ移行する際に、ボタンを押すことでバネの力でレンズが自動的に所定の位置まで押し出される機構です。この機構により、迅速な撮影準備が可能になりました。

このカメラの名称は、和製英語という説もありますが、1932年のローデンストックやバルダのカタログにドイツ語で「Spring-Kamera」として記載されていることから、ドイツ発祥のカメラであることがわかります。

スプリングカメラの盛衰

スプリングカメラの歴史は、1908年にヒュッティヒが発売した「アトム」に遡ります。その後、1922年以降にコダックがポケット・コダックシリーズに採用したことで、ロールフィルムカメラとしての地位を確立しました。1929年にツァイス・イコンが発売した「イコンタ」は、そのコンパクトさとスマートさからベストセラーとなり、1934年にドイツコダックが発売した「レチナ」もヒットしたことで、スプリングカメラは一般的なカメラ形式の一つとして認知されるようになりました。

1930年代から1950年代にかけては、二眼レフカメラと並んで最も人気のあるカメラとして広く普及しました。特に、6×4.5cm判以上のフィルムを使用するスプリングカメラは、コンタクトプリントでも鑑賞に耐えうる画質を提供できたため、それまで主流だった写真乾板を使用するハンドカメラに取って代わる存在となりました。また、比較的構造が簡単なため、カメラ自体の価格も安く、一般層にも広く普及した要因の一つです。

しかし、スプリングカメラには構造上の課題も存在しました。折りたたみ時にシャッター付きレンズが大きく移動するため、ボディとの連動が難しく、特にシャッターボタンの位置や距離計連動機構の開発が難航しました。多くのスプリングカメラは、距離計なし、もしくは非連動距離計を内蔵するに留まりました。

ツァイス・イコンの「スーパーイコンタ」は、旋回するプリズムによって機械的連動なしで距離計連動を実現し、マミヤ光機の「マミヤシックス」は、フィルム面を移動させることで距離計連動を実現するなど、一部のメーカーは技術的な課題を克服しましたが、電気露出計が普及し自動化の波が押し寄せる中で、構造的な課題は致命的となりました。

また、「前蓋を開く際の減圧によるフィルム面の不安定さ」、「レンズ交換の不可」、「レンズの大型化・重量化」といった課題も、スプリングカメラの衰退を加速させました。1950年頃以降、ライカ判レンジファインダーカメラや一眼レフカメラが主流となり、スプリングカメラは次第に姿を消していきました。

スプリングカメラの元祖とも言えるイコンタシリーズも、1960年頃に製造中止となり、日本製のスプリングカメラであるパールシリーズも1958年に発売されたパールIV型を最後に生産を終えました。

スプリングカメラの復活

スプリングカメラは、その携帯性や堅牢性から、一部の山岳写真家などから支持を受けました。1986年時点でも、川口邦雄氏がパールIVを、白簱史朗氏がスーパーイコンタIを現役機材として使用していた例もあります。また、近年では、1983年にフジカGS645プロフェッショナル、2009年にフジGF670フォールディングといった新製品が断続的に発売されており、その復権が期待されています。

日本製スプリングカメラ

日本においては、1933年に小西六本店（現コニカミノルタ）が発売した「パール」が最初のスプリングカメラとされています。軍需インフレの影響もあり、スプリングカメラブームが形成されました。初期の日本製スプリングカメラは、ウェルタペルレをコピーした「セミファースト」やバルダックスをコピーした「セミビクター」といった例外を除き、セミイコンタのコピーが主流でした。

連動距離計を搭載した機種としては、モルタ合資会社（現コニカミノルタ）の「オートセミミノルタ」、プラウドの「スーパーセミプラウド」、マミヤの「マミヤシックス」シリーズなどが挙げられます。

フォーマット

スプリングカメラは、様々なフォーマットのものが存在します。ツァイス・イコンのイコンタシリーズでは、6.5×10.5cm判、6×4.5cm判、6×6cm判、6×9cm判、4×3cm判、24×36mm判などがありました。また、スーパーネッテルやコンテッサは24×36mm判でした。フォクトレンダーのベッサシリーズは、6×6cm判と6×9cm判、ドイツコダックのレチナシリーズは24×36mm判でした。日本では、6×4.5cm判と6×6cm判のカメラが主流でした。

使用上の注意点

スプリングカメラを使用する際には、前蓋を開ける際に注意が必要です。前蓋ロック解除ボタンを押す際に、前蓋を下に向けていると、レンズやシャッターが勢いよく飛び出して支持金具を傷める可能性があります。また、蛇腹の急激な伸張によって空気の流れが起き、フィルムの平面性を損なう恐れがあります。そのため、前蓋を手で支えながら静かに開ける必要があります。

まとめ

スプリングカメラは、そのコンパクトさと携帯性から一時代を築いたカメラですが、構造的な課題からその地位をライカ判レンジファインダーカメラや一眼レフカメラに譲りました。しかし、その独特な機構や魅力から、現在でも一部の愛好家によって使用され続けています。

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