写真乾板

写真乾板について

写真乾板（しゃしんかんぱん）とは、写真術において使用される感光材料の一種で、無色透明なガラス板に写真乳剤を塗布したものです。この写真乳剤は、臭化カリウムと硝酸銀の溶液をゼラチンに加えることで作られる光に感せいする物質です。日本では「ガラス乾板」や単に「乾板」と呼ばれることもあります。

歴史的背景

写真乾板は1871年にイギリスの医師リチャード・リーチ・マドックスによって発明されました。当初は青色の光にのみ感光するものでしたが、1873年にはヘルマン・フォーゲルが新たな技術を開発し、黄色と緑色にも感光するようになりました。その後、1878年には工業生産が始まり、写真乾板は箱入りで販売され、使用者は必要に応じて現像ができるようになりました。このことにより、従来の湿板技術は急速に淘汰されていきました。

1884年にヨーゼフ・マリア・エーダーがさらなる改良を加え、感度も向上しました。この進展は、ハンドカメラや瞬間シャッターの開発を刺激し、手持ち撮影が可能になるとともに、アマチュア写真家たちの参入を促しました。後に、ガラスからニトロセルロースに製造方法が変更され、特にロールフィルムが1888年に登場すると、乾板カメラは急速に普及が進みました。日本では1931年の満州事変以降、アマチュア写真が人気を集め、ロールフィルムカメラが主流となりました。田中政雄は1935年を「乾板とロールフィルムの交替期」と位置付けています。

科学分野における利用

写真乾板は、その安定性と優れた品質から、特に大判の撮影で利用されてきました。フィルムに比べて高い解像度を持ち、科学研究において重宝されましたが、1980年代に入り、電荷結合素子（CCD）が普及すると、乾板の利用は減少していきました。それでも、CCDはその解像度において乾板に及ばないため、天文学などの専門分野では写真乾板の使用が続けられ、1990年代まで重要な役割を持っていました。

天文学における役割

写真乾板は天文学においても多大な貢献をしています。肉眼による観測が主流だった時代に、小惑星や衛星などの発見に使用されていました。例えば、1891年にマックス・ヴォルフが(323) ブルーシアを発見した際、写真乾板が用いられました。冥王星の発見にも写真乾板が活用されており、特にその衛星カロンは、冥王星の影の変化を細かく調べることで発見されました。パロマー天文台でのスカイサーベイなど、数々の天文調査でも写真乾板が活動の中心となったのです。

物理学と医学における利用

また、写真乾板は放射線観測にも使用されました。特に1910年代にはヴィクトール・フランツ・ヘスによって宇宙線の発見に利用された歴史があります。そして、医学分野においても一定の役割を果たしてきましたが、近年ではデジタル技術の進展により、イメージングプレートなどに取って代わられつつあります。

規格と用途

写真乾板にはさまざまな規格が存在し、用途によって多様なサイズがあります。アトム判や小名刺判、大名刺判などが主に使用され、特に小型カメラの登場とともに多くの高級カメラが生産されました。乾板に代わる素材として、シートフィルムも利用されており、今後も写真乾板の歴史は続いていくことでしょう。

まとめ

写真乾板は、写真技術の進化に大きく寄与したアイテムであり、その歴史は多岐にわたります。アマチュアや専門家を問わず、多くの分野で利用され続けてきた写真乾板は、現代のテクノロジーの中でもまだ一定のニーズが存在します。そのユニークな特性は、今後も評価されていくことでしょう。

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