スペイス・オディティ

『スペイス・オディティ』（Space Oddity）は、イギリスのミュージシャン、デヴィッド・ボウイが1969年に発表した通算2作目のスタジオ・アルバムです。しかし、その音楽性や方向性から、ボウイのキャリアにおける「実質的なファースト・アルバム」として語られることも多い、極めて重要な作品と位置づけられています。

制作背景と「スペイス・オディティ」の誕生

本作が生まれる契機となったのは、アルバムのタイトルにも冠された楽曲「スペイス・オディティ」の成功でした。当時ボウイのマネージャーを務めていたケネス・ピットは、この曲を含むデモ音源を各方面に売り込みます。折しも世間は、アメリカ合衆国が進めるアポロ計画、特に人類初の月面着陸に向けた話題で持ちきりでした。この時代背景が功を奏し、マーキュリー・レコードのカルヴィン・リーの目に留まったことで、フィリップス・レコードとの契約が実現します。

契約後、ボウイは1969年 6月20日に「スペイス・オディティ」を改めて録音。B面には「フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年」を収め、同年7月11日にシングルとしてリリースしました。タイムリーなテーマであったことから、「スペイス・オディティ」はBBCのアポロ11号月面着陸特別番組などで頻繁に使用され、テーマ曲のような扱いを受けます。これが大きな宣伝効果となり、シングルは全英チャートで最高5位を記録するヒットとなりました。この成功を受けて、フィリップス・レコードはボウイにアルバム制作を依頼したのです。

リリースとタイトルの変遷

アルバムはシングルのヒットから間もない1969年 11月14日、フィリップス・レコードよりLPレコードとして発表されました。しかし、その発表時には地域によってタイトルが異なっていました。イギリス盤はフィリップスからシンプルに『David Bowie』として、アメリカ盤はマーキュリー・レコードから『Man of Words, Man of Music』というタイトルでリリースされました。

タイトルの統一と定着は、数年後の再発時に行われます。1972年、ボウイがブレイクを果たした後のRCAレコードが本作の権利を取得し、再発売を決定します。この際、アルバムは「スペイス・オディティ」の大ヒットを改めて想起させるべく、シングルと同じ『スペイス・オディティ』へと改題されました。同時にジャケットのアートワークも変更され、初期盤に収録されていた楽曲「ドント・シット・ダウン」が削除されました。このRCA盤以降、『スペイス・オディティ』が本作の正式なタイトルとして広く認識されることになります。

アルバム内容と評価

本作は、単なるヒット曲の寄せ集めではなく、その後のボウイの多様な音楽性を予感させる内容となっています。特にタイトル曲「スペイス・オディティ」は、アポロ11号の月面着陸という人類史的な出来事に沸く世の中に対し、架空の宇宙飛行士トム少佐が宇宙空間で孤独と自身の小ささを感じ、やがて広大な宇宙の闇へと消えていくという、孤独や疎外感、近代化へのアンチテーゼを内包した物語を描いています。このテーマ性は、後のボウイ作品にも通じる重要な要素です。

音楽的には、フォーク、サイケデリック・ロック、プログレッシブ・ロックなどの要素が混在しており、ボウイの実験的な姿勢が随所に見られます。後のグラムロック期のような派手さはありませんが、内省的で文学的な歌詞世界と、多様な楽器編成によるアレンジが特徴です。

その後のリリース

本作はその後も繰り返し再発されています。1990年にはEMI（米国ではRYKO）よりCD化され、再発売されました。このCD化の際には、初期盤から削除されていた「ドント・シット・ダウン」が復活し、さらに未発表テイクが3曲追加収録されました。また、2010年8月25日には、発売40周年を記念して、さらに多くの未発表音源を追加した2枚組の「40周年記念エディション」がEMIより発売されています。

参加ミュージシャンとスタッフ

本作の制作には、後にボウイのキャリアに深く関わることになる重要なミュージシャンやスタッフが参加しています。ボウイ自身はボーカルやギターに加え、スタイロフォンやカリンバなども演奏しています。ギタリストとしてキース・クリスマスやティム・レンウィックらが参加。ベースはトニー・ヴィスコンティやハービー・フラワーズらが担当しました。ドラムはジョン・ケンブリッジやテリー・コックス。特筆すべきは、後にイエスのメンバーとして活躍するリック・ウェイクマンがメロトロンやエレクトリック・チェンバロで参加している点です。

ボーナストラックとして収録された「カンヴァセーション・ピース」や、後のセッション音源である「フリー・フェスティバルの思い出パート1&2」には、それぞれ別のミュージシャンが参加しており、特に「フリー・フェスティバルの思い出」では、後に「ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ」の中核となるミック・ロンソン（ギター）とミック・ウッドマンシー（ドラムス）がボウイやトニー・ヴィスコンティと共に演奏しており、後の黄金期を予感させます。

プロデューサーとしては、「スペイス・オディティ」のみガス・ダッジョンが手掛け、それ以外の楽曲はトニー・ヴィスコンティが担当しています。ヴィスコンティはベーシストとしても参加しており、本作以降、ボウイのサウンド構築に不可欠な存在となっていきます。

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