スペイン (チック・コリアの曲)

スペイン (Spain) -チック・コリア-

「スペイン」は、ジャズ界の巨匠チック・コリアによって1972年に作曲され、彼が率いる伝説的バンド、リターン・トゥ・フォーエヴァーの代表作として知られています。この楽曲は、アルバム『Light as a Feather』に収録され、発表以降、世界中の音楽ファンやミュージシャンを魅了し続けています。

楽曲構成と特徴

「スペイン」の最大の特徴は、クラシック音楽とジャズ、そしてラテン音楽という、一見異質な要素が見事に融合している点です。イントロダクションでは、スペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴによる有名な「アランフエス協奏曲」第2楽章（アダージョ）が引用され、叙情的で美しい旋律が繰り広げられます。しかし、曲はそこで終わらず、一転してアップテンポなアフロ・キューバンリズムへと移行します。

その後の展開では、フルート、エレクトリックピアノ（ローズ・ピアノ）、アコースティックベースが、情熱的かつ自由奔放なアドリブを繰り広げます。各コーラスの間には、印象的で技巧的なリフが挿入され、楽曲に更なる彩りを加えています。テーマ部分は12小節（または24小節）で完結しますが、ブルース形式とは全く異なる独特なコード進行が用いられているのも特徴です。

コード進行の例

Gmaj7 | Gmaj7 | F#7 | F#7 | Em7 | A7 | Dmaj7 | Gmaj7 | C#7 | F#7 | Bm | B7

多様なカバーと演奏形態

「スペイン」は、その魅力的なメロディーと高度な音楽性から、世界中の様々な演奏家によってカバーされています。キーボードはもちろんのこと、ギターをはじめとする様々な楽器で演奏されており、特にギタリストからの人気が高いのが特徴です。ギターのみのトリオや、ギターを中心としたスリーピースバンドなど、多様な編成で演奏されています。

デュオでの演奏も多く、ラリー・コリエルとスティーヴ・カーンのように、2本のギターによる演奏や、ミシェル・カミロとトマティートのように、ピアノとギターによる情熱的なデュオも存在します。また、ビッグバンド（GRPオールスター・ビッグ・バンドなど）による壮大な演奏も存在し、その多様な表現力で聴衆を魅了しています。

日本国内でも、「スペイン」は多くのミュージシャンによってカバーされています。佐藤竹善、松本孝弘、渡辺香津美などがそれぞれの解釈によるカバー曲をリリースしており、本多俊之とトルヴェール・クヮルテットによるサクソフォーンアンサンブル（アルバム「HIGH FIVE」に収録）も高い評価を受けています。

チック・コリア自身も「スペイン」を度々再演しており、アルバム『スタンダーズ・アンド・モア』（1989年）ではピアノトリオで、上原ひろみとの共演ライブ盤『デュエット』（2008年）ではピアノデュオで、それぞれ異なるアプローチによる演奏を披露しています。

歌詞の有無とボーカルカバー

原曲には歌詞がありませんが、歌詞を付けてカバーされることもあります。アル・ジャロウ、マリーン、hiro、平原綾香、meg（ジャズシンガー）など、国内外の多くのボーカリストが「スペイン」に歌詞を乗せて歌い上げています。過去には、久保田利伸がテレビ番組「夜のヒットスタジオ」で、カシオペアと土岐英史をバックに「スペイン」を披露したこともあります。

その他のエピソード

「スペイン」は、音楽の枠を超えて、様々な場面で使用されています。MRT宮崎放送の報道番組「MRTニュースワイド」のオープニング曲として1980年代まで使用されていました。また、2007年3月に放映された、キリンビバレッジ「生茶（甘み火入れ玉露入り）」のCMでは、この曲のストリングスアレンジバージョンがBGMとして使用され、多くの視聴者の耳を惹きつけました。

「スペイン」は、チック・コリアの音楽的才能を象徴するだけでなく、様々なジャンルの音楽家や聴衆に愛され続ける、時代を超えた名曲と言えるでしょう。

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