スペースX CRS-2

スペースX CRS-2ミッション

スペースX CRS-2は、同社が国際宇宙ステーション（ISS）へ物資を輸送するために実施した、NASAとの商業軌道輸送サービス契約に基づく2回目の運用ミッションです。SpX-2とも呼ばれ、スペースXのドラゴン宇宙船としては4番目の飛行にあたります。このミッションでは、当時使用されていたファルコン9ロケットの初期バージョン（v1.0）の第2段にとって、5回目かつ最後の飛行となりました。

ミッションの準備と背景

CRS-2ミッションに使用されるファルコン9ロケットの第1段は、前回のCRS-1ミッションで発生したエンジン故障の原因究明が行われていた影響で、テキサス州からフロリダ州の発射場への輸送が遅延しました。2012年11月にはロケットがケープカナベラル空軍基地に到着し、打ち上げに先立つ2013年2月25日には静止点火試験が無事実施されました。

CRS-2ミッションの特筆すべき点として、ドラゴン宇宙船の非与圧貨物室が運用で初めて使用されたことが挙げられます。これにより、ISSの外部に設置される大型機材などを軌道上で輸送することが可能となりました。このミッションでは、熱遮断サブシステム把持用取っ手（HRSGFs）2機が非与圧区画に搭載されました。

打ち上げと初期トラブルの克服

CRS-2ミッションは2013年3月1日に打ち上げられました。しかし、打ち上げから間もなく、軌道に到達する前に小さな技術的な問題が発生しました。具体的には、第2段ロケットから分離された直後、ドラゴン宇宙船の推進系に不具合が生じました。

この不具合は、姿勢制御を担う4基のスラスターポッドのうち、3基の液体燃料系（酸化剤である四酸化二窒素）で適切な圧力が得られなかったことに関連していました。これにより、飛行コンピューターは機体を安全な受動的停止モードへ移行させ、軌道操作が不可能となりました。スラスターシステムが無効化され、さらに規定により、適切な高度に達していなかったためソーラーアレイも展開されませんでした。

カリフォルニア州ホーソーンにあるスペースXのミッションコントロールセンター（MCC-X）のチームは、直ちに問題の解決にあたりました。この状況は、イーロン・マスク氏によるソーシャルメディアを通じても断続的に報告されました。最終的に、管制チームは「命令抑制無視」という特別なコマンドを発行し、ドラゴンの制御を取り戻すことに成功しました。スラスターポッドの圧力問題が徐々に改善する中、姿勢制御が不安定な状態ではありましたが、機体の温度などを考慮してソーラーアレイの展開が続行され、無事に成功しました。

ISSへの係留には最低3基のスラスターポッドの稼働が必要でしたが、修正の結果、4基全ての制御を取り戻し、ISSへ向かう軌道を修正することが可能となりました。この時点で、イーロン・マスク氏は「オールシステムグリーン」と状況の回復を宣言しました。

ISSとのランデブーと係留

初期トラブルからの回復により、当初予定されていた3月2日のISSとのランデブーは翌日の3月3日に延期されました。

2013年3月3日10時31分（UTC）、ドラゴン宇宙船はISSに接近し、第34次長期滞在クルーの司令官ケビン・A・フォード宇宙飛行士とフライトエンジニアのトーマス・マーシュバーン宇宙飛行士によって、ISSのロボットアーム「カナダアーム2」を使って捕捉されました。その後、同日13時56分（UTC）に、ISSのハーモニーモジュールの地球側ポートに無事係留されました。

搭載貨物とISS滞在

CRS-2ミッションでは、打ち上げ時に総重量677kgの貨物を輸送しました。輸送機自体の重量を除くと575kgにあたります。これには、クルー向けの補給品（81kg）、様々な科学実験に必要な用品（348kg）、そしてISSの維持・運用に必要な機材や設備（135kg）などが含まれていました。特に注目された貨物として、ロックバンド「サーティー・セカンズ・トゥ・マーズ」の音楽CDが含まれており、ISS滞在中の2013年3月18日にNASA TVの放送内で再生されました。

前述の通り、ドラゴンの非与圧貨物室には合計221kgの熱遮断サブシステム把持用取っ手（HRSGFs）2機が外部貨物として運ばれました。これらはISS係留中の2013年3月6日に、カナダアーム2によってドラゴンの貨物ベイから取り出されました。これは、商業宇宙機によるISSへの非与圧区画からの貨物輸送が初めて成功した事例となりました。

地球への帰還

CRS-2宇宙船の地球への帰還は、当初3月25日に予定されていましたが、着水地点となる太平洋の近郊の悪天候予報のため、一日遅れの3月26日に延期されました。この宇宙での追加滞在期間は、地球へ持ち帰られる予定だった科学サンプルの状態に影響を与えなかったとされています。

2013年3月26日4時10分（EDT）、地上管制からの指令を受け、ドラゴン宇宙船はカナダアーム2によってハーモニーモジュールから係留を解除されました。その後、6時56分（EDT）にカナダアーム2から開放され、ISSからゆっくりと離れるよう誘導されました。

帰還貨物として、ドラゴン宇宙船は総重量1370kgを搭載して地球へ戻りました。輸送機自体の重量を除くと1210kgです。これには、ISSクルーが使用した物品（95kg）、実験サンプルを含む化学実験関連用品（660kg）、ISSから取り外された機材や設備（401kg）、そして宇宙遊泳関連の用品（38kg）などが積まれていました。

ドラゴン宇宙船は、同日11時42分（EDT）に帰還のためのエンジン噴射を行い、大気圏へ突入しました。そして、12時34分（EDT）にバハ・カリフォルニア沖の太平洋上に無事着水しました。

着水後、スペースXのエンジニア、技術者、ダイバーからなる回収チームが速やかに現場に向かい、機体と搭載された科学貨物を回収しました。回収されたドラゴン宇宙船は、およそ30時間をかけて岸辺まで運ばれ、ミッションは完了しました。

CRS-2ミッションは、打ち上げ直後の予期せぬトラブルを管制チームの迅速な対応で乗り越え、ISSへの重要な物資輸送と貴重な科学サンプルや機材の回収を成功させた、商業宇宙輸送の能力を示す上で大きな一歩となったミッションでした。

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