スポメニック

スポメニック：旧ユーゴスラビアの記憶を刻むモニュメント

スポメニック（Spomenik）は、セルビア・クロアチア語で「記念碑」を意味し、1950年代から1980年代にかけて、旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国各地に建設された第二次世界大戦の記念碑や慰霊碑の総称です。その最大の特徴は、他国の戦争記念碑とは一線を画す、シュルレアリスムを彷彿とさせる前衛的かつ未来的なデザインにあります。

建設の背景と目的

第二次世界大戦中、ユーゴスラビアはナチス・ドイツをはじめとする枢軸国の侵攻を受け、国内は激戦地となりました。さらに、多民族国家であったユーゴスラビアでは、民族間の対立が激化し、虐殺が繰り返される悲劇も起きました。スポメニックは、こうした戦争の犠牲者を弔い、ファシズムと戦ったパルチザン兵士を称え、ユーゴスラビアの独立と民族融和を象徴する愛国的シンボルとして建設されました。

当時のユーゴスラビア大統領、ヨシップ・ブロズ・チトーの指示のもと、国家プロジェクトとして全国に2万から4万ものスポメニックが建設されました。材質は主に鉄筋コンクリートですが、アルミニウムやステンレス鋼などの金属が用いられたものもあります。

デザインの特徴

スポメニックのデザインは多種多様ですが、共通して言えるのは、そのユニークで型破りなフォルムです。戦争記念碑としては異例なほど前衛的な形状は、現在でも研究対象となるほど人々の関心を惹きつけています。

ユーゴスラビアは、建国当初こそソビエト連邦の社会主義リアリズムを模倣していましたが、次第に独自の文化を形成し、1960年代には西側諸国の芸術運動である抽象表現主義などのモダニズムが広く見られるようになりました。スポメニックは、ユーゴスラビアの建築物の中でもモダニズムの影響が特に顕著に表れており、建築家だけでなく彫刻家などの美術家もデザインに携わっています。

モダニズムが受け入れられた背景には、以下の要因があります。

建国直後の親ソ路線からの脱却と独自の文化・アイデンティティの形成の象徴
革命がもたらす未来的なビジョンを直感的に表現できる
* 戦争の直接的な表現を避け、民族間の緊張の再燃を抑制する

また、デザインの選考プロセスは公募展やコンペティションを通じた民主的な形式で行われ、政府による検閲も最小限であったため、多くの芸術家が自由な発想で参加できました。さらに、ユーゴスラビアには厳しい渡航制限がなく、国内の芸術家は西側諸国の現代美術を学ぶことができたことも、スポメニックの独創的な形状に繋がったと考えられています。

論争と破壊

しかし、スポメニックの抽象的なデザインは、当時から少なからず批判を受けました。例えば、北マケドニアのクルシェヴォにある『イリンデン』は、モーニングスターを模った放射状の突起がついた球体という特異なデザインであり、その抽象性の高さから多くの否定的な意見が寄せられました。

また、クロアチアのヤセノヴァツに建築された『石の花』は、虐殺の慰霊碑としては抽象的すぎるとして物議を醸し、セルビア人の民族主義者からは「犠牲者を侮辱している」といった苦情が寄せられました。

1980年代に入ると、チトーの死去によって民族主義が再台頭し、民族間の対立が再び激化しました。そして、1991年のユーゴスラビア崩壊とそれに続く紛争によって、多くのスポメニックが破壊、解体されるか、紛争の影響で廃墟と化してしまいました。

現在の状況と再評価

現在、建設当時の形状を保ったまま現存しているスポメニックはごく一部です。その多くは荒廃したまま放置され、保存に向けた動きも目処が立っていません。

しかし、近年、スポメニックの特徴的な形状がインターネットで話題になるなどして国外からの関心を集めるようになり、研究や観光も行われるようになっています。国内でもユーゴノスタルギヤなどからスポメニックが持つ本来の意味の再評価が行われており、保存や復刻に向けた動きも少しずつ広がっています。

スポメニックは、ユーゴスラビアの歴史と文化を象徴する貴重な遺産です。その保存と再評価を通じて、過去の悲劇を乗り越え、平和な未来を築いていくことが求められています。

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