スユアの波

『スユアの波』：時空を超えるサーフィンの調べ

松任谷由実（ユーミン）の29枚目のオリジナルアルバム『スユアの波』は、1997年12月5日にリリースされました。アルバムタイトルの『スユア（ZUVUYA）』は、古代マヤ語で時空を超える波を意味し、ジャケットに描かれたサーフボードが示唆するように、「サーフィン」がアルバムの主要なコンセプトとなっています。しかし、それは単なるウォータースポーツではなく、「ネットサーフィン」にも通じる、精神的な側面も内包しています。いつでも青春時代に戻れるというユーミンの願いが、このアルバム全体に込められていると言えるでしょう。当初は『時空のサーファー』という仮タイトルが付けられていたことも興味深い点です。

このアルバムは、前年2月に予定外のオリジナルアルバムが発売されたことにより、1983年以来となる1年2枚のアルバムリリースという結果となりました。ジャケットに描かれた印象的なサーフボードは、イラストレーターの下條ユリ氏による作品です。

オリコン週間アルバムチャートでは、河村隆一の『Love』に惜しくも阻まれ2位となりました。これは、1981年の『昨晩お会いしましょう』から前作『Cowgirl Dreamin’』まで続いた、17作連続1位という偉業に終止符を打つ結果となりました。そして、オリジナルアルバムでの1位獲得は、2016年の『宇宙図書館』まで実に19年間途絶えることになります。

多彩な楽曲群：

アルバムには、多様な楽曲が収録されています。ハワイを舞台にした「セイレーン」は、1998年のベストアルバム投票キャンペーンで、当選者へのハワイ旅行プレゼントとして「セイレーン賞」が設けられたほどです。フジテレビ系ドラマ『成田離婚』のテーマソングとして先行リリースされた「Sunny day Holiday」は、アルバムバージョンではシングルバージョンとは異なるミックスと歌詞、コーラスが採用されています。映画『時をかける少女』の主題歌「夢の中で〜We are not alone, forever」も、アルバムバージョンとシングル（映画）バージョンでアレンジが異なります。

レゲエのリズムを取り入れた「きみなき世界」や、苗場プリンスホテルのCMソング「パーティーへ行こう」、結婚式のイメージを覆すような「結婚式をブッ飛ばせ」など、ユーミンの幅広い音楽性を感じさせる楽曲が並びます。特に「結婚式をブッ飛ばせ」は、コンサートツアー『LEGEND OF THE ZUVUYA TOUR』では、ウェディングドレス姿でユーミンが独特のポーズで始まる演出が話題となりました。このポーズは、2011年発売のフォトストーリー本『THE YUMING』のYUMING BOX限定カバーにも使用されています。

さらに、1983年に原田知世に提供し、自身も歌った「時をかける少女」を基に、歌詞とメロディを大幅に変更した「時のカンツォーネ」も収録。こちらも『時をかける少女』の主題歌として使用されました。そして、薬師丸ひろ子への提供曲「Woman」とは異なる楽曲「Woman」も収録されています。モンゴルのホーミーを取り入れた「Saint of Love」は、イントロと間奏、アウトロでゴスペル風のコーラスが効果的に使用されている、聴き応えのある楽曲です。

豪華ミュージシャン陣：

『スユアの波』には、松任谷正隆氏をはじめ、Mike Baird、John Robinson、Leland Sklar、Dean Parks、Michael Landau、Paul Jackson Jr.、松原正樹、吉川忠英など、国内外のトップミュージシャンが参加。その豪華な演奏陣も、アルバムの魅力を高めています。

『スユアの波』は、サーフィンというテーマを軸に、ユーミンの音楽的探求と、青春への憧憬、そして時空を超える普遍的なメッセージが凝縮された、まさに名盤と言えるでしょう。その多彩な楽曲と、豪華なミュージシャン陣の演奏は、今もなお多くのリスナーを魅了し続けています。

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