スリン県

スリン県（タイ語: จังหวัดสุรินทร์）は、タイ王国の東北部に位置する県（チャンワット）の一つです。東側から南側にかけてカンボジアとの国境を有しており、国内ではブリーラム県、マハーサーラカーム県、ローイエット県、シーサケート県と境界を接しています。

地理的には、県域の北部にはタイ最大の河川であるメコン川の主要な支流の一つであるムーン川が滔々と流れています。一方、南部には東西に連なるドンレック山脈が広がり、これがタイとカンボジアの自然の国境線を形成しています。北部と南部で異なる地形が見られます。

この地域の歴史は古く、特に12世紀頃のクメール王朝時代には重要な拠点の一つとして栄えたと考えられています。現在でも県内の各地には、その時代の名残を示すクメール遺跡が点在しており、往時の繁栄を物語っています。時代は下り、1763年には現在の場所に県庁所在地が移設されました。この時の集落はムアン・プラターイサナンと呼ばれていました。

スリン県の名称の由来には、象にまつわる興味深いエピソードがあります。チエンプムという名の人物が、貴重な白い象を捕獲し、当時まだ王位に就いていなかった若き日のラーマ1世（チャクリー王朝初代国王）に献上しました。この功績により、チエンプムは「ルワン・スリンパックディー」という官位と欽錫名を授けられ、その地の指導者としての役割を担うことになりました。後にラーマ1世が即位し、彼が国王となると、ルワン・スリンパックディーはその地の知事に任命されます。そして1786年、彼の栄誉ある欽錫名の一部である「スリン」を冠して、この県は正式に「スリン県」と改称されました。この出来事が契機となり、スリン県は象との結びつきが強い地域として広く認識されるようになり、「象の県」という愛称で親しまれるようになりました。現在も、毎年11月頃には国際的な「象祭り」が盛大に開催され、多くの観光客で賑わいます。

住民構成としては、県民の約47.2パーセントがクメール語を話す人々であり、タイ国内におけるクメール文化の影響が色濃く残る地域の一つと言えます。

行政区分に関しては、スリン県は17の郡（アンプー）に細分化されています。さらに、各郡はその下位に158の町（タムボン）、そして最小単位として2,011の村（ムーバーン）によって構成されており、県全体にわたる詳細な行政が行われています。

スリン県は多くの著名人も輩出しています。特に、K-1やムエタイなど、様々な格闘技で数々のタイトルを獲得した世界的に知られるキックボクサー、ブアカーオ・ポー.プラムック（現在はบัญชาเมฆ）はこの県の出身です。また、アクション映画『マッハ!!!!!!!!』シリーズなどで国際的に活躍する俳優、トニー・ジャーもスリン県で生まれ育ちました。これらの人物は、スリン県の名を国内外に広める一助となっています。

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