スル・ポンティチェロ

スル・ポンティチェロ（sul ponticello）は、ヴァイオリンをはじめとする弦楽器の特殊奏法の一つです。これは、弓で弦を擦る際に、通常よりも極端に駒に近い位置を擦って演奏する技法を指します。演奏者の間では「スルポン」と略されることもあります。

弦楽器の演奏において、駒と指板の間でどの位置の弦を擦るかは、音色を大きく左右する重要な要素です。一般的に、駒に近い位置を弾くと、強く硬質な音が得られ、逆に指板に近い位置を弾くと、弱く柔らかい音になります。通常、演奏者は楽曲や表現意図に合わせてこれらの位置を使い分けます。

スル・ポンティチェロは、作曲者の指示によって意図的に駒の極めて近くを弾かせ、通常の演奏では得られない特殊な音色を引き出す奏法です。この奏法を用いると、基音が少なく倍音を多く含んだ、金属的でざらついた、ある意味で異質な音響効果が得られます。この効果は、主に近代以降の音楽において、不安定さや緊張感を表現するために多用されています。

演奏者によっては、スル・ポンティチェロの音色を、楽器を始めたばかりの頃に経験するような「ガラスを引っ掻く音」と捉える人もおり、必ずしも好まれる奏法ではありません。しかし、その独特な音色は、楽曲に深みと複雑さを加える上で重要な役割を果たしています。

ちなみに、スル・ポンティチェロとは逆に、極端に指板に近い位置を弾く奏法を「スル・タスト（sul tasto）」と言います。スル・タストは、柔らかく、より丸みを帯びた音色を生み出す効果があります。

スル・ポンティチェロが登場する楽曲の例:

ハイドン - 交響曲第97番
ベートーヴェン - 弦楽四重奏曲第14番
レオシュ・ヤナーチェク - 弦楽四重奏曲第1番、弦楽四重奏曲第2番
シベリウス - エン・サガ
プロコフィエフ - ヴァイオリン協奏曲第1番、弦楽四重奏曲第2番
バルトーク - 弦楽四重奏曲
コダーイ - 無伴奏チェロソナタ
小山清茂 - 管弦楽のための木挽歌
ムソルグスキー - トゥシュマロフ編曲 - 展覧会の絵
細川俊夫 - 祈る人

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