スンニー・トライアングル

スンニー・トライアングル

スンニー・トライアングル（英語: Sunni Triangle, アラビア語: المثلث السني）とは、イラク共和国中央部、特に首都バグダードの北西方面に広がる特定のエリアを指して使われる地理的な呼称です。この名前は、この地域の範囲がバグダードを南東、サッダーム・フセイン元大統領の出身地としても知られるティクリートを北、そしてラマーディーを南西のそれぞれおおよその頂点として結んだ際に、概ね三角形を描くことに由来しています。

この地域が特別に「スンニー・トライアングル」として認識される最大の理由は、その住民構成にあります。イラクという国は、人口の多数を占めるシーア派イスラム教徒、北部を中心にまとまって居住するクルド人といった多様な集団で構成されていますが、スンニー・トライアングル内では、人口の過半数をスンナ派イスラム教徒のアラブ人が占めているという特徴があります。この人口構成は、イラク国内全体における宗教的・民族的な分布とは一線を画しており、この地域の社会構造や政治的傾向に大きな影響を与えています。

歴史的な観点から見ると、このスンニー・トライアングルは、長きにわたりイラクを統治したサッダーム・フセイン大統領の政権にとって、極めて重要な支持基盤でした。バース党主導の政権は、特にスンナ派アラブ人、中でもティクリート近郊出身者を中心に構成されており、この地域は政権の権力基盤、そして忠誠心の源泉として機能していました。したがって、2003年にアメリカ軍などによるイラク戦争によってサッダーム政権が崩壊した後、この地域は必然的に戦後の混乱期において、最も注目され、また問題の中心となる場所となりました。

イラク戦争が勃発し、バグダードを含むイラク中央部が連合軍によって制圧された後、スンニー・トライアングル地域では、占領軍に対する激しい抵抗活動が頻繁に発生するようになりました。旧政権の支持者や体制の変化に反発するスンナ派住民の一部が武装組織を結成し、アメリカ軍などを標的としたゲリラ攻撃やテロ行為を繰り返しました。このため、この一帯は戦後イラクで最も治安が悪化し、不安定化した地域の一つと見なされるようになりました。

旧大統領であるサッダーム・フセイン自身も、政権崩壊後はこのスンニー・トライアングルの範囲内に潜伏していました。そして、2003年12月14日、彼は自身の生まれ故郷に近いティクリートから南へ約15キロメートル離れたアル＝ダウル村で、地下に隠れているところをアメリカ軍によって発見され、身柄を拘束されました。この出来事は、この地域が旧体制といかに強く結びついていたかを象徴する出来事として、広く報じられました。

また、スンニー・トライアングル内で起きた特筆すべき出来事の一つに、ファルージャの戦闘があります。ファルージャはバグダードとラマーディーの間に位置するこの地域の主要都市です。2004年春、特に3月31日にアメリカの民間軍事会社社員4名がファルージャ市内で殺害され、遺体が市中に吊るされるという衝撃的な事件が発生しました。これを契機として、ファルージャの地元武装勢力が大規模な抵抗を開始し、市の治安維持を担当していたアメリカ海兵隊との間で激しい市街戦が繰り広げられました（後に「第一次ファルージャの戦闘」と呼ばれる）。この戦闘は、イラク戦争後の抵抗運動の激しさと、都市部での戦闘の過酷さを世界に示した重要な出来事となりました。

このように、スンニー・トライアングルは、その独特な地理的位置と住民構成、サッダーム政権との歴史的な繋がり、そしてイラク戦争後の激しい抵抗活動の中心地となったことから、現代イラクの歴史と情勢を理解する上で欠かせない、極めて重要な地域と言えます。この地で起きた出来事は、イラク国内の宗派間の緊張や、国の安定に向けた課題に大きな影響を与え続けています。

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