スーパー・ストリングス

『スーパー・ストリングス』は、ベーシストのスタンリー・クラーク、ギタリストのアル・ディ・メオラ、ヴァイオリニストのジャン＝リュック・ポンティという、ジャズ・フュージョン界でそれぞれが確固たる地位を築いた巨匠たちによる連名の作品として、1995年に発表されたスタジオ・アルバムです。彼らは通常、エレクトリック楽器を巧みに操ることで知られていますが、本作では意表を突くことに、全編にわたりアコースティック楽器のみを使用したセッションが収められています。

背景

このユニークなアコースティック・トリオ編成が実現した背景には、当時アコースティック音楽への傾倒を深めていたアル・ディ・メオラの提案がありました。スタンリー・クラークによると、ドラムを含まないアコースティック・トリオという基本的な構想は企画段階から存在していましたが、最初はピアノを加える案も浮上しました。しかし、そのアイデアはすぐに却下され、代わりにジャン＝リュック・ポンティの名前が挙がったことで、構想が具体的な形になったといいます。

一方、ポンティ自身は後年、このアコースティック・ヴァイオリンでの演奏について、当初は複雑な心境であったことを明かしています。彼は5歳から音楽学校を卒業するまでクラシック・ヴァイオリンを学びましたが、ジャズやロックの世界に入ってからはアンプを使用するエレクトリック・ヴァイオリン奏者として独自のスタイルを確立してきたため、「アコースティック・ヴァイオリンをステージで弾くことには、本当に自信が持てなかった」と振り返っています。自宅ではアコースティック楽器で練習を続けていたものの、公の場で演奏する機会はほとんどなかったためです。

この3人の間には、過去の共演歴がありました。クラークとディ・メメオラは1970年代にチック・コリア率いる伝説的なグループ、リターン・トゥ・フォーエヴァーで共に活動し、その歴史に名を刻んでいます。クラークとポンティは、1972年にトニー・ウィリアムス率いるライフタイムで初めて顔を合わせています。しかし、アル・ディ・メオラとジャン＝リュック・ポンティという二人の巨匠の組み合わせは、本作まで実現していませんでした。

アルバム制作に先立ち、3人は1994年7月からヨーロッパを巡るツアーを開始しました。このツアーの一環として出演したモントルー・ジャズ・フェスティバルでの演奏は、後に2005年にDVD『Live at Montreux 1994』として世に出されています。そして、ツアーで演奏を重ねた後の1995年4月、本作のレコーディングが行われました。

収録曲

本作には、メンバーそれぞれの代表曲の再演や、このトリオのために書き下ろされたオリジナル曲が収録されています。

収録曲は以下の通りです。

1. インディゴ - "Indigo" (Al Di Meola) - 7:13
- アル・ディ・メオラが「ワールド・シンフォニア」プロジェクトのアルバム『ハート・オブ・ジ・イミグランツ』（1993年）で発表した楽曲の再演です。
2. ルネッサンス - "Renaissance" (Jean-Luc Ponty) - 4:36
- ジャン＝リュック・ポンティのリーダー・アルバム『極光（Aurora）』（1976年）に収められていたナンバーの再演です。
3. ソング・トゥ・ジョン - "Song to John" (Stanley Clarke, Chick Corea) - 6:03
- スタンリー・クラークとチック・コリアの共作による、クラークのリーダー・アルバム『ジャーニー・トゥ・ラヴ』（1975年）からの楽曲の再演です。クラークとポンティは、2005年にディ・メオラの代わりにバンジョー奏者のベラ・フレックを迎えたユニット「トリオ!」のライブでもこの曲を演奏しています。
4. チリアン・パイプ・ソング - "Chilean Pipe Song" (Di Meola) - 6:14
5. トパンガ - "Topanga" (Clarke) - 5:56
6. モロッコ - "Morocco" (Di Meola) - 5:44
7. チェンジ・オブ・ライフ - "Change of Life" (Ponty) - 5:29
8. ソフィアの唄 - "La Cancion De Sofia" (Clarke) - 8:33
9. メモリー・キャニオン - "Memory Canyon" (Ponty) - 6:00

参加ミュージシャンは、スタンリー・クラーク（アコースティック・ベース）、アル・ディ・メオラ（アコースティック・ギター）、ジャン＝リュック・ポンティ（ヴァイオリン）の3名のみです。

ツアーとその後

アルバムの発表後、3人は北米、南米、ヨーロッパと、各地で約6か月にわたる大規模なツアーを行いました。この成功を受け、彼らはその後も共演の機会を設けています。2003年11月にはスタンリー・クラーク主催のベネフィット・コンサートで共演を果たし、2004年には再び北米ツアーが実現しています。

反響と評価

本作は商業的にも一定の成功を収め、アメリカのビルボード誌が発表するコンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャートでは最高4位を記録しました。

批評家からの評価も概ね高く、音楽レビューサイトのオールミュージックにおいて、ロバート・テイラーは5点満点中4点を与え、「完成度、音楽性、作曲、即興演奏のいずれも一級品である」と、三者の卓越した技量を高く評価しています。また、『ロサンゼルス・タイムズ』紙のレビューを担当したBill Kohlhaaseは、4点満点中3点を与え、「ここで聴ける最大のスリルはクラークのアップライト演奏にある」と言及しつつ、「普段エレクトリック楽器の熱狂的なファンであるリスナーにとっては、いくらか物足りなさを感じさせるかもしれない。しかし同時に、そうしたリスナーもアコースティック・サウンドの持つ可能性に耳を傾ける機会となるだろう」と、本作の持つユニークな立ち位置について評しています。

エレクトリック楽器で名を馳せた三人が、アコースティック楽器によって、互いの音楽性と技巧を深く響き合わせた本作は、彼らのキャリアの中でも特異な、そして聴きごたえのある作品となっています。

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