スール・スーリール

ラ・スール・スーリール

ラ・スール・スーリール（La Sœur Sourire）は、本名をジャンヌ=ポール・マリ・デッケルス（Jeanne-Paule Marie Deckers）といったベルギー出身の歌手です。「歌う修道女」を意味する「ザ・シンギング・ナン（The Singing Nun）」の愛称でも世界的に親しまれました。1933年 10月17日に生まれ、1985年 3月29日に亡くなっています。

生涯

ジャンヌは第二次世界大戦中、家族と共にパリで暮らしました。父は当時、レジスタンス運動に参加していたといいます。終戦後、1945年に一家はベルギーへ戻り、サン・アンリに居を構えました。そこで学校に通った後、1953年には単身フランス・パリへ留学し、美術学校で学びました。ベルギーに戻ってからは美術教師としての訓練を受け、ブリュッセルの女子校で教壇に立っていました。しかし、1959年に人生の大きな転機を迎えます。ベルギーにあるドミニコ会のフィシェルモン修道院に入会し、修道女となったのです。この時、与えられた修道名は「シスター・リュック・ガブリエル」でした。

修道院での生活が始まってから、ジャンヌはギターを弾き始め、自ら作曲するようになります。その音楽の才能はすぐに認められ、他の修道女たちからの温かい励ましを受けて、1963年にレコードを発表するに至ります。アルバム『ザ・シンギング・ナン』に収録された彼女の楽曲「ドミニク（Dominique）」は、またたく間に人気が沸騰し、全米のヒットチャートを駆け上がりました。ビルボード誌では、シングルチャート（Hot 100）とアルバムチャートの両方で栄えある1位を獲得するという快挙を成し遂げます。これにより、彼女は文字通り一夜にして国際的なスターダムを駆け上がり、「シスター・スマイル」を意味するスール・スーリールという芸名で活動するようになります。1964年には、アメリカの人気テレビ番組『エド・サリヴァン・ショー』にも出演し、その存在感を世界に示しました。「ドミニク」は日本でも大きな反響を呼び、ペギー葉山やザ・ピーナッツ、東京放送児童合唱団など、多くの日本人歌手やグループによって日本語詞でカバーされました。

1966年には、ジャンヌの生涯を基にしたとされる映画『歌え!ドミニク』が、人気女優デビー・レイノルズ主演で製作されました。しかし、この映画の内容は、ジャンヌ自身の本当の伝記とはかけ離れたものであったと言われています。

同じ1966年、ジャンヌは修道院を離れる決断をします。それまでに得た収入の大半は、修道院に寄付していたとされています。音楽活動においては新たな境地を模索しつつあったものの、彼女の人気は次第に衰退していきました。これは、彼女自身が世俗的な名声を必ずしも歓迎していなかったという側面も影響していたのかもしれません。1967年に発表したセカンドアルバムには、"I Am Not a Star in Heaven"（私は天の星じゃない）というタイトルが付けられていました。

敬虔なカトリック信者であった彼女は、やがてカトリック教会の保守的な姿勢に対し批判的な立場を強めていきます。特に、産児制限を公然と主張するようになりました。1966年には、ジョン・レノンが行ったキリスト教批判にも共感を示していたといいます。1967年にはリュック・ドミニクという名義で、産児制限をテーマにした賛歌「黄金のピルのために神の栄光あれ」を録音して発表しましたが、この曲が商業的な成功を収めることはありませんでした。

音楽活動から退いた後、ジャンヌは10年来の親友であったアニ・ペシェルと共に、ベルギーで自閉症の子どもたちのための学校を開設しました。しかし、1970年代後半になると（1978年 7月22日の『アメリカン・トップ40』放送で報じられたとされる）、ベルギー政府から5万米ドルという巨額の追徴課税を求められるという事態に見舞われます。ジャンヌは、このお金は修道院への寄付であり課税対象外であると主張しましたが、残念ながら寄付を証明する公式な領収書が存在しなかったため、その主張は認められませんでした。この一件により、彼女は深刻な経済的苦境に陥ります。1982年には芸能界への復帰を試みましたが、これも成功しませんでした。そして、経済的、精神的に追い詰められたジャンヌは、長年の親友アニ・ペシェルと共に、睡眠薬とアルコールを過剰摂取し、自ら命を絶ったのです。二人は共に葬られました。

スール・スーリール

ラ・スール・スーリール

生涯

関連作品