セイケイ

セイケイ

セイケイ（学名：Porphyrio porphyrio）は、ツル目クイナ科に属する鳥類です。和名の「青鶏」の通り、全身を彩る鮮やかな青紫色の羽毛が最大の特徴で、大きな赤い脚と太いくちばし、頭部前面を覆う額板を持つ、存在感のある鳥です。世界中の熱帯から温帯にかけて広く分布しており、生息する地域によってその外見や呼ばれ方が多様であることも特徴の一つです。英語ではPurple Swamphenと呼ばれ、フランス語の「talève sultane」に由来するSultana Bird、ニュージーランドの亜種のマオリ語名であるPūkekoなど、様々な別名で親しまれています。学名のPorphyrioは、古代ギリシャ語で「紫色の鳥」を意味し、その美しい色彩をよく表しています。

分類学上、セイケイは複数の亜種に分けられてきましたが、近年では遺伝子研究などにより、地域ごとの違いが大きいことから、これらを独立した種として扱う見解も有力となっています。例えば、ヨーロッパに生息する基準亜種P. p. porphyrioは全身が光沢のある青紫色ですが、アフリカや南アジアの亜種は背面が緑色、オーストラリアやインドネシアの亜種は背面と頭部が黒くなるなど、地域によって羽色が大きく異なります。フィリピンの亜種は、背面が茶色がかった淡い青色をしています。どの亜種も下尾筒は白色で、コントラストが際立ちます。体長は約50センチメートルほどで、クイナ科の中では比較的大きな部類に入ります。また、絶滅したロードハウセイケイや、ニュージーランド固有種のタカヘは、セイケイと近縁であり、島嶼への適応の中で姿を変えた仲間と考えられています。特に、ニュージーランドにはオーストラリアと同じ亜種であるP. p. melanotusも生息しており、こちらは「プケコ」の名で知られ、タカヘが減少した後に分布を広げたと推測されています。

セイケイは、沼や池、湖のほとり、湿った草地といった湿潤な環境を好んで生息します。単独やつがい、あるいは家族単位で生活することが多いですが、時には大きな群れを形成することもあります。食性は多様なものを食べる雑食で、水辺の植物の柔らかい芽や種子、果実などを主に食べますが、昆虫、甲殻類、カタツムリなどの無脊椎動物、さらにはカエルや小魚、水鳥の卵や雛まで捕食することが知られています。地面の餌をついばむだけでなく、器用に大きな脚を使って食べ物を掴み、それを口に運ぶという独特の摂食行動を見せます。地域によっては都市近郊の公園などでも見られ、人慣れしている個体も少なくありません。セイケイの鳴き声は非常に特徴的で、けたたましい金切り声を発します。この声は特に繁殖期によく聞かれ、縄張りの宣言やコミュニケーションに使われると考えられています。飛ぶのはあまり得意ではありませんが、長距離を移動する能力は持っています。また、水かきはありませんが、泳ぎは非常に達者です。

繁殖期には、オスがメスに対して求愛のディスプレイを行います。オスは水草をくわえ、首を下げてお辞儀をするような仕草をしながら、大きな声で鳴きます。巣は水辺の植生、特にヨシ原などに作られます。ヨシの茎や葉、水草、時にはゴミなどを集めて、水面に浮かぶ台のような浮巣を巧妙に作り上げます。セイケイの繁殖の特徴の一つは、ヘルパーと呼ばれる個体が子育てを助けたり、一つの巣に複数のメスが卵を産み、共同で抱卵や育雛を行ったりすることです。卵は通常、赤みがかった黄褐色から淡黄色の卵を3-6個産みますが、複数のメスが産卵することで一つの巣に最大12個もの卵があることも珍しくありません。抱卵期間は約24日間です。

セイケイと人との関わりは古く、古代ローマ時代にはその美しい姿が珍重され、別荘などで観賞鳥として飼育されていた記録が残っています。当時のローマ人にとってセイケイは高貴な鳥とされており、食用とはされなかった数少ない鳥の一つだったといわれています。現代においては、ペットとして飼育されていた個体が逃げ出し、本来生息しない地域で野生化する事例が世界各地で報告されています。特にアメリカ合衆国のフロリダ州では、移入されたセイケイが繁殖し、現地の湿地生態系に影響を与える可能性が指摘されており、州当局が根絶を試みるなどの問題も生じています。その美しい姿と独特の生態を持つセイケイは、古くから人々を魅了する一方で、人間の活動が彼らの生息状況や分布に影響を与えている現状もあります。

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