セイタカシギ

セイタカシギ

セイタカシギ（学名：Himantopus himantopus）は、チドリ目セイタカシギ科に分類される鳥類です。その名の通り、体に対して非常に長い脚を持つのが最大の特徴で、「丈高鷸」とも表記されます。学名の「Himantopus」はギリシャ語で「革ひものような足」を意味し、その長い脚にちなんで名付けられました。英名の「Black-winged Stilt」は、「黒い翼」と、細く長い脚を竹馬（stilt）に例えたものです。

形態

体長は約37cm、翼を広げた開長は約70cmですが、特筆すべきはその脚の長さで、付け根から指先まで約25cmにも及びます。脚の色は赤または桃色で、細くまっすぐな黒い嘴、鮮やかな赤い虹彩を持ちます。首から腹部にかけては白色、翼は灰色または黒色で、地味な種が多いシギ類の中では際立って目立つ、独特な姿をしています。

季節によって羽色に変化が見られます。夏羽では頭頂部から後頭部にかけてが黒くなりますが、冬羽ではこれらの部位は白または灰色になります。性的二形もあり、雄は背中が光沢のある黒色、雌は褐色を帯びた灰色です。幼鳥は全体的に褐色で、頭部には褐色の斑点があり、羽縁が白いのが特徴。若鳥は雌の成鳥に似ていますが、風切羽が褐色を帯び、脚の色がより淡いです。冬羽では全体的に色が薄れ、脚の色も夏場の鮮やかな赤から桃色に変化します。飛行時には、長い脚を後方にまっすぐに伸ばす独特の姿勢をとります。

分布

セイタカシギはヨーロッパ、アフリカ、アジア南部を中心に世界各地に広く分布しています。日本ではかつて迷鳥として稀に記録される程度でしたが、1975年に愛知県の干拓地で初めて国内での繁殖が確認されました。その後、埋立地の増加に伴い、1978年以降には東京湾、伊勢湾、三河湾周辺でも繁殖が確認されるようになり、留鳥として定着する個体が増えました。現在では日本各地で生息が確認されており、特に東京湾沿いの千葉県習志野市にある谷津干潟などでは一年を通して観察することができます。近年の繁殖例としては、2007年に葛西臨海公園野鳥園、2009年6月には鹿児島県の沖永良部島でも記録されています。

生態

主な生息環境は、湿地、干潟、湖沼、河口、水田などです。繁殖期にはペアで縄張りを持ち生活しますが、非繁殖期には小さな群れを形成します。この群れは、ペアを中心とした家族が集まって構成されることがあると考えられています。

食性は動物食で、非常に長い脚を活かして水辺や干潟を歩き回り、嘴を水中に差し入れて獲物を探します。主に昆虫、エビやカニなどの甲殻類、小魚、ゴカイなどを捕食します。長い脚を持つことで、他のシギ・チドリ類やサギ類が入れないような、やや深い場所でも採食が可能です。採食中には首を振りながら歩く姿も見られます。海水域で採食した後は、淡水域で水浴びをして塩分を落とす習性があります。

日本での繁殖期は4月から6月頃で、水際の見通しの良い場所に枯れ草などを積み重ねて巣を作ります（地面に直接産卵することもあります）。一度に4個の卵を産み、雌雄交代で約26〜27日間抱卵します。営巣地が水害を受けやすかったり、外敵による捕食が多かったりするため、卵の孵化率は2割未満と低いと言われています。

雛は早成性で、孵化するとすぐに巣を離れて自力で餌を探し始めます。親鳥は外敵から雛を守りますが、給餌や餌の捕り方を教えることはありません。興味深いことに、雌の約半数は育雛の途中で繁殖地を離れることがあり、その場合は残された雄が雛の世話を引き継ぎます。雛は孵化からおよそ26日で飛べるようになります。

鳴き声

様々な鳴き声を発します。通常は「ビューイッ」と聞こえる声で鳴き、繁殖期や警戒時には高く鋭い「ケレッ、ケレッ、ケレッ」という声を出します。飛び立つ際には、澄んだ細い声で「ピピッ」と鳴きます。

分類と近縁種

セイタカシギはセイタカシギ属（Himantopus）に属します。この属にはセイタカシギのほか、かつて亜種とされていたものが独立種として扱われるようになったいくつかの種が含まれます。多くの種は腹部が白く背面が黒または灰色ですが、頭部の模様などに違いが見られます。

主な近縁種には以下のようなものがいます。

オーストラリアセイタカシギ（H. leucocephalus）：主にオーストラリアに分布し、頭部の白色部分が広いのが特徴です。
クロエリセイタカシギ（H. mexicanus）：南北アメリカ大陸に分布し、頭部が黒く、目の周りが白いのが特徴です。ハワイ諸島には独自の亜種が分布し、絶滅が危惧されています。日本では外来種として一部地域で確認されています。
ナンベイセイタカシギ（H. melanurus）：南米に分布し、クロエリセイタカシギよりも大きく、頭頂部が白いのが特徴です。
クロセイタカシギ（H. novaezelandiae）：ニュージーランドに分布する希少種で、全身が黒い特異な外見をしています。

日本で観察されるセイタカシギは、主に本種（H. himantopus）かオーストラリアセイタカシギであることが多いとされます。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、2004年から軽度懸念（LC）に指定されており、世界的な個体数は増加傾向にあります。日中渡り鳥保護協定の指定種でもあります。

一方、日本では環境省のレッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。これは、生息環境の減少や質的な劣化、外来種であるクロエリセイタカシギとの交雑による遺伝的撹乱などが懸念されているためです。都道府県レベルでも、長崎県で絶滅危惧IA類に指定されるなど、多くの地域で独自のレッドリストに掲載され、保全の対象となっています。

（環境省レッドリスト：絶滅危惧II類 (VU)）
（都道府県レッドリスト：絶滅危惧IA類 (CR) - 長崎県、絶滅危惧I類 (CRまたはEN) - 福井県、香川県、絶滅危惧IB類 (EN) - 東京都、山口県、愛媛県、大分県、絶滅危惧II類 (VU) - 愛知県、徳島県、鹿児島県、沖縄県、準絶滅危惧 (NT) - 新潟県、静岡県、京都府、島根県、岡山県、高知県、宮崎県など）

もう一度検索