セイヨウカジカエデ

セイヨウカジカエデ (Acer pseudoplatanus) について

セイヨウカジカエデは、カエデ科カエデ属の落葉広葉樹で、中央ヨーロッパから南西アジアにかけて自生しています。フランスからウクライナ、スペイン北部山地、トルコ北部、コーカサス地方など、幅広い地域に分布していましたが、現在は世界各地で栽培・帰化しています。その姿はスズカケノキに似ていますが、分類学的には全く異なる種です。

名称の由来

セイヨウカジカエデの学名 Acer pseudoplatanus は、葉や樹皮がスズカケノキ（プラタナス）に似ていることから、「偽のプラタナス」を意味するギリシャ語の "pseudo-" が付けられました。しかし、カエデ属とスズカケノキ属は葉の付き方（葉序）が異なり、カエデ属が対生であるのに対し、スズカケノキ属は互生です。また、果実もカエデ属が翼果を2つ1組でつけるのに対し、スズカケノキ属は球状の集合果をつけるなど、明確な違いがあります。

英名で "sycamore" と呼ばれることがありますが、これは本来、イチジク属の一種である Ficus sycomorus の名称です。葉の形状が似ていることから、セイヨウカジカエデやプラタナスもこの名で呼ばれることがあります。その他に、false plane-tree, great maple, Scottish maple, mock-plane, Celtic mapleといった別名も存在します。

特徴

セイヨウカジカエデは、成熟すると20〜30mに達する大型の落葉樹で、ドーム状の樹冠を形成します。若い木の樹皮は滑らかな灰色ですが、成長とともに粗くなり、鱗状に剥がれて薄茶色やピンクがかった色を呈します。

葉は対生で、掌状に5つに浅く裂けており、大きさは10〜25cm程度。革のような質感で、裏面の葉脈が隆起しています。葉の縁は鋸歯状で、表面は濃緑色、裏面は白っぽい色をしています。品種によっては、紫や黄色がかった葉を持つものもあります。また、真菌の一種によって黒い斑点が生じることがあります。葉柄は赤みを帯びていることが多いです。

雌雄同株で、春に黄緑色の花を咲かせます。花は10〜20cmの穂状花序を形成し、各茎に20〜50個ほどの花をつけます。種子は翼果で、2つ1組になっており、風に乗って遠くまで散布されます。種子の翼は20〜40mmで、回転しながら落下します。成熟した木が倒れると、根から蘖（ひこばえ）が生えることがあります。

生態系

セイヨウカジカエデは、いくつかの鱗翅目昆虫の幼虫の食草となっています。

歴史

セイヨウカジカエデは、15世紀以前にヨーロッパから持ち込まれた史前帰化植物とする説と、人間の介入なしに自力で広がったとする説があります。スコットランド・ゲール語には、この木を指す古い言葉が存在するため、少なくともゲール人がダルリアダ王国に入植した頃には、スコットランドに存在していたと考えられています。現在では、帰化植物として扱われるのが一般的です。

栽培と用途

セイヨウカジカエデは、耐風性、耐都市汚染性、耐塩水噴霧性、耐寒性に優れているため、ヨーロッパでは都市部や沿岸地域、冬に塩を撒く道路沿いなどでよく植えられています。原産地よりも北の地域でも生育し、ブリテン諸島やスカンジナビア半島で広く帰化しています。北米でもニューイングランド、ニューヨーク、太平洋岸北西部などで栽培されており、南半球の温帯地域でも植栽されています。

セイヨウカジカエデは盆栽としても利用され、特に中～大規模な盆栽に用いられます。人気の品種 'Brilliantissimum' は、若葉が鮮やかなサーモンピンク色になることで知られています。また、花は香りが良く、蜜を豊富に産生します。

木材

セイヨウカジカエデの木材は、白く絹のような光沢があり、耐久性が高いことで知られています。楽器、家具、フローリング、寄木細工などに用いられます。特に波状の木目を持つものは、装飾用のベニヤ板として高値で取引されます。重さは立方メートルあたり約630kgで、広葉樹としては中程度です。古くからバイオリンの裏板、ネック、スクロールに使われてきました。この木材は、「rippled sycamore」という名前で販売されることもあります。土に触れると腐りやすいため、主に屋内で用いられます。

外来生物種としての問題

セイヨウカジカエデは、オーストラリアやニュージーランドの一部地域、ノルウェー、イギリスの環境に敏感な地域で侵略的外来種とみなされています。アメリカ合衆国農務省やニューヨーク州も侵略的外来種として認識しています。これらの地域では、在来種を駆逐し、生態系に悪影響を与える可能性があると懸念されています。

文化

イギリスのクリスマスキャロル "Wassail, Wassail All Over the Town" に登場する "white maple" は、シルバーメイプルではなく、セイヨウカジカエデを指します。

著名な木

トルパドルの殉教者の木

1834年、イギリスのトルパドル殉教者として知られる6人の農場労働者は、セイヨウカジカエデの木の下で、初期の労働組合を結成しました。その木は胴回りが5.9mあり、2005年の調査により、1680年頃に生まれたと推定されています。現在はナショナル・トラストが管理しており、枝の剪定が行われています。

コーストフィンのセイヨウカジカエデ

かつてスコットランドのコーストフィン村に植えられていたセイヨウカジカエデ（プラタナスと表記されることもあります）は、この木の独特な黄色の葉を持つ亜種 Acer pseudoplatanus Corstorphinensis の由来となりました。この木は15世紀に植えられたと言われています。1679年に起こったジェームズ・フォレスター卿殺害事件の現場となった場所としても知られています。1998年の嵐で倒伏しましたが、挿し木により再生され、現在はコーストフィンの教会付属の庭にあります。

参考文献

Acer pseudoplatanus page at the University of Connecticut

Watch more sycamore (Acer pseudoplatanus) video clips from the BBC archive on Wildlife Finder

Video of the notable Auchenskeith Sycamore in Ayrshire.

セイヨウカジカエデ - Encyclopedia of Life

Eichhorn, Markus (January 2011). “Everybody hates sycamores?”. Test Tube. Brady Haran for the University of Nottingham.

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