セクシー・セディー

ビートルズ「セクシー・セディー」：怒りと失望の裏に隠された真実

「セクシー・セディー」（Sexy Sadie）は、1968年にリリースされたビートルズのアルバム『ザ・ビートルズ』（通称：ホワイト・アルバム）に収録された楽曲です。一見すると女性を題材にした曲のように聞こえますが、実はジョン・レノンがインド滞在中に抱いた、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーに対する怒りと失望を表現したものでした。

誕生の背景：インドでの出来事

1968年、ビートルズのメンバーは、ジョージ・ハリスンの勧めでインドのリシケーシュにあるマハリシ・アシュラムに滞在し、超越瞑想の修行を行いました。しかし、滞在中にジョン・レノンは、マハリシが同じく修行に参加していた女優のミア・ファローを誘惑したという噂を耳にします。これに強い反感を抱いたレノンは、当初「マハリシ」というタイトルでこの曲を発表しようとしました。しかし、ジョージ・ハリスンに諭され、「セクシー・セディー」というタイトルに変更されたのです。

レノンは後に、「マハリシに触発されて書いた曲だ。荷物をまとめて出発しようとしていた時に書いた。インドを離れる前に書いた最後の曲だった」と語っています。

噂の真相：様々な憶測

ただし、このエピソードには異説も存在します。アップル・コアのサウンド・エンジニアだったアレックス・マーダスが、マハリシの影響力を疎ましく思い、でっち上げたという説です。また、ビートルズとマハリシの決裂の原因についても、「マハリシ側からの資金提供の要請にビートルズが応じなかった」「ビートルズ一行が道場で酒や薬物をたしなんでいたことにマハリシが怒った」など、様々な説があります。

ジョージ・ハリスンは、『ザ・ビートルズ・アンソロジー』の中で、「マハリシに関する噂は全部作り物だった。あの場所全体が変わり者だらけで、その何人かが僕らだった。ジョンは帰りたがっていたから、そういう話を聞くと『よし、帰る口実ができた』と考えたんだ」と振り返っています。

レコーディング：試行錯誤の末に

「セクシー・セディー」のレコーディングは、1968年7月19日にEMIレコーディング・スタジオで始まりました。当初のアレンジは、テンポが遅く物憂い印象のものでしたが、試行錯誤を重ね、様々なバージョンが録音されました。しかし、なかなか納得のいくものができず、レコーディングは難航します。

7月24日にはリメイクが開始され、ジャズ調のイントロが試されたり、オルガンとピアノを主体としたアレンジが試されたりしましたが、やはり完成には至りませんでした。その後、3週間の間、この曲は手つかずの状態になります。

8月13日、再びリメイクが開始され、テイク番号は100からスタートしました。このバージョンで、ようやくレノンは満足のいくテイクを録音することができ、最終的な仕上げに入ります。そして、8月21日のセッションで、ついに「セクシー・セディー」は完成したのです。

楽曲の評価と影響

「セクシー・セディー」は、その独特の雰囲気と、ジョン・レノンの感情が込められた歌詞で、多くの人々を魅了してきました。2018年には、『インデペンデント』誌がアルバム『ザ・ビートルズ』収録曲を対象としたランキングで、本作を6位に選出。「今日まで、ほろ苦い軽蔑の念を漂わせており、そのムーディーな最後の部分は、レディオヘッドの『カーマ・ポリス』やアークティック・モンキーズの『フォー・アウト・オブ・ファイヴ』を彷彿とさせる」と評しています。

また、『タイムアウト・ロンドン』誌が発表した「The 50 Best Beatles songs」では第14位にランクインするなど、高い評価を得ています。

ジョージ・ハリスンが1974年に発表したソロ・アルバム『ダーク・ホース』に収録されている「シンプリー・シェイディ」という曲のタイトルは、「セクシー・セディー」に由来していると言われています。

「セクシー・セディー」は、単なるラブソングではなく、ジョン・レノンの個人的な感情や葛藤が込められた、奥深い楽曲です。その背景を知ることで、より深くこの曲を理解し、楽しむことができるでしょう。

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