長沢節

長沢節（ながさわ せつ）

多彩な才能を発揮したファッション界の先駆者

長沢節（1917年5月12日 - 1999年6月23日）は、日本のイラストレーター、水彩画家、デザイナー、エッセイスト、ファッション評論家、映画評論家として、多岐にわたる分野で活躍した人物です。特に、ファッション・イラストレーターの草分けとして知られ、その革新的なスタイルは、日本のファッション界に大きな影響を与えました。また、セツ・モードセミナーを創設し、多くの優れた人材を輩出した教育者でもあります。

生涯

福島県会津若松市に生まれた長沢節は、小学校時代に画家で小学校教師の渡部菊二と出会い、美術への関心を深めました。会津中学に進学後、軍事教練をボイコットしたことが原因で、官立校である東京美術学校（現在の東京藝術大学）への受験資格を失います。その後、文化学院に入学し、卒業後は水彩画家としての道を歩み始めました。

画家として活動する中で、春日部たすく画伯と親交を深め、中原淳一の推薦により、女性誌『新女苑』でイラストレーターとしてデビューを果たします。その後、『それいゆ』や『ひまわり』といった雑誌にイラストやエッセイを掲載し、その才能を広く知られるようになりました。また、親交のあった三島由紀夫が、長沢節が書いた小説に注目したというエピソードも残っています。

1938年から1968年までの約30年間、池袋モンパルナスと呼ばれたすずめヶ丘のアトリエ村に住み、創作活動を行いました。しかし、戦時中は、そのやせこけた画風が軍部から問題視され、執筆停止処分を受けるという苦難も経験しています。戦後、長沢節は、当時としては刺激的なスタイル画で、日本のファッション界に旋風を巻き起こしました。また、アドセンターの依頼により、プレタポルテ運動のために日本で初めてのファッションショーを開催し、水彩連盟にスタイル画（現在のキッシュアート）部門を創設するなど、その功績は多岐にわたります。

1967年には、男性にスカートを提案する「モノセックス・ショー」を開催し、大きな話題を呼びました。賛否両論がありましたが、このショーは、性別の固定観念にとらわれない自由なファッションを提示したとして、革命的な出来事として語り継がれています。このショーについて、長沢節は「1人1人のパーソナリティ（人格）こそがなによりも優先して尊重されなければならない」と述べています。

長沢節は、生涯独身を貫き、「自由で上品な美しさ」という独自の美学を持っていました。彼の美学は、多くの人々に影響を与え、現在でも多くの人々から支持されています。1999年6月23日、自転車での転倒事故により、脳挫傷で亡くなりました。

セツ・モードセミナー

1954年、長沢節は「節スタイル画教室」をサロン・ド・シャポー内の一室で始めました。その後、この教室は「セツ・モードセミナー」と改称され、ファッション業界で活躍する多くの人材を輩出する教育機関として発展しました。セツ・モードセミナーからは、山下充、春日部洋、星信郎、初川良など、様々な分野で活躍する多くの優れた人材が育ちました。

その他の活動

長沢節は、服飾雑誌『装苑』で27年間「セツ・シネマセミナー」を連載し、映画評論家としても活躍しました。また、山下充、春日部洋、星信郎、初川良らと絵画団体「サンチマン・ヌーボー」を結成し、画家としての活動も続けていました。

略年譜

1946年：スカートをはいて銀座を歩き、街頭スナップの写真記事が掲載される
1954年：節スタイル画教室をサロン・ド・シャポー内の一室で始める（後にセツ・モードセミナーと改称）
1960年：1年間渡仏
1964年：男女のペアが同じスカート・衣装を着用する「モノセックス・ショー」を開催（銀座ワシントン靴店協賛）
1965年：セツ・モードセミナーの校舎を新宿に移転
1970年：「ホモ・ジュッピーズ」を開催
1999年6月23日：自転車で転倒し、脳挫傷にて死去

受賞歴

第8回ミモザ賞（1996年）
毎日ファッション大賞鯨岡阿美子賞（1998年）
(その他はすべて辞退)

デザイン

『銀座旋風児』（1959）：主人公の服飾デザイン担当

著書

長沢節は、多くの著書も残しており、彼の美学や思想を知ることができます。

『スタイル画教室 モード・エスプリ・デッサン』（1956年）
『長沢節デッサン集 第1輯』（1957年）
『デッサン・ド・モード 女と男の新しい形を描く』（1966年）
『細長いスネをもつ優しい男たちの中で』（1970年）
『スタイル画の世界』（1976年）
『わたしの水彩』（1980年）
『大人の女が美しい』（1981年）
『セツの100本立映画館』（1985年）
『弱いから、好き。』（1989年）
『長沢節と風景たち』（1992年）
『美少年映画セミナー』（1994年）
『あいまいな色が好き。 セツのおしゃれノート』（1994年）
『デッサン・ド・モード = Dessins de Mode : 美しい人を描く』（2012）
『わたしの水彩 = Mes aquarelles : 水彩画家・セツの美学』（2013）
『セツ先生とミチカの勝手にごひいきスター』（2017年）

挿絵担当

長沢節は、挿絵画家としても活躍し、数々の作品でその才能を発揮しました。

『ふしぎな絵かきさん』（1946年）
『こどもの歌』（1950年）
『ミツバチ・マアヤの冒険』（1951年）
『三銃士』（1951年）
『家なき子』上・中・下（1952年）
『シチリアの少年』（1956年）
『若草物語』（1956年）
『佐渡狐』（1971年）

作品展

長沢節の作品は、数々の展覧会で展示され、多くの人々を魅了しました。

弥生美術館 「長沢節展 〈セツ神話〉の秘密に迫る」（2004年）
弥生美術館 「長沢節回顧展 〈長沢節生誕100年展〉」（2017年）
喜多方美術館 「長沢節展 〈会津の長澤昇から憧れのセツへ〉」（2019年）

TV出演

長沢節は、テレビ番組にも出演し、その魅力的な人柄を多くの人に伝えました。

NHK 『お宅訪問』
NHK 『生活ほっとモーニング』
NHK 『映像ファイル「あの人に会いたい』～「長沢節」

関連書籍

長沢節に関する書籍も多数出版されており、彼の生涯や作品について深く知ることができます。

『長沢節 伝説のファッション・イラストレーター』（2004年）
『池袋モンパルナス』（1990年）
『セツ学校と不良少年少女たち』（1985年）
『長沢節物語 セツ・モードセミナーと仲間たち』（1996年）
「セツのダンディズム講座」（『MR.ハイファッション』誌の連載）（1980年）
「セツ神話」（『アサヒグラフ』）（1994年）

外部リンク

セツ・モードセミナー
デジタル版 日本人名大辞典+Plus『長沢節』 - コトバンク
長沢節 - NHK人物録

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