セノオ楽譜

セノオ楽譜とは

セノオ楽譜は、妹尾幸次郎（1891年 - 1961年）が設立したセノオ音楽出版社から大正時代に出版された楽譜のシリーズです。その特徴は、竹久夢二などの著名な画家による美しい表紙絵と、当時の人々の音楽嗜好に合わせた選曲にありました。セノオ楽譜は、大正時代における西洋音楽の大衆化に大きく貢献しました。

妹尾幸次郎とセノオ楽譜の誕生

東京で生まれた妹尾幸次郎は、慶應義塾在学中にワグネル・ソサエティーで合唱に親しむ一方、音楽評論家・訳詞家としても活動していました。新聞や音楽雑誌に演奏会評やオペラ解説などを寄稿する中で音楽への造詣を深め、1915年にセノオ音楽出版社を設立し、楽譜出版を開始します。これがセノオ楽譜の始まりです。

セノオ楽譜の特徴

セノオ楽譜は、1000点以上もの楽譜を出版し、大正期から昭和戦前期にかけて人気を博しました。特に、竹久夢二が描いた表紙絵は「大正ロマン」の象徴として広く知られています。選曲も当時の人々の音楽趣味を捉え、西洋音楽を身近に感じられるような工夫が凝らされていました。


セノオ楽譜の人気の理由は、

当時の日本人の音楽趣味に合わせた選曲
斬新で美しいデザインの装幀

にありました。特に、夢二の表紙絵は多くの人々を魅了し、セノオ楽譜は大正時代を代表する文化的な存在となりました。

セノオ楽譜の衰退

しかし、1929年頃を境に、セノオ楽譜の人気は衰退していきます。ラジオやレコードの普及により、家庭で手軽に音楽を楽しめるようになったことが大きな要因です。ヴァイオリンやマンドリンなどの楽器を演奏する人が減少し、楽譜の需要も低下しました。その後、社名を太陽音楽出版社に変更し「太陽樂譜」シリーズを出版しましたが、かつての勢いを取り戻すことはできませんでした。

多岐にわたる音楽活動

妹尾幸次郎は、楽譜出版だけでなく、来日演奏家の紹介やラジオ放送での洋楽担当など、大正期の音楽界を牽引する活動を幅広く行いました。彼は、音楽事業家として、日本の音楽文化の発展に大きく貢献しました。

多様な楽譜シリーズ

セノオ音楽出版社からは、「セノオ楽譜」の他に、「セノオバイオリン楽譜」「セノオ新小唄」「セノオヤマダ楽譜」など、様々なシリーズの楽譜が出版されました。最も出版点数が多かったのは「セノオ楽譜」で、約500点が出版されました。次いで「セノオバイオリン楽譜」が約170点、その他のシリーズは10点から50点程度でした。


「セノオ楽譜」は、1-2曲が収録されたピース楽譜で、そのほとんどが声楽作品でした。器楽曲はわずか2％程度で、声楽作品の内訳は、歌曲が5割強、オペラの抜粋が2割強、軍歌が1割、その他は合唱や民謡などでした。作品の作曲者は、日本人だけでなく、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、アメリカ、イギリス、ロシアなど、幅広い国々に及びます。

販売方法

セノオ楽譜は、新しい印刷技術を用いて、20銭から30銭という当時としては手頃な価格で販売されました。楽器店の他、三越呉服店や白木屋呉服店などでも購入することができました。また、通信販売も行われ、送料2銭で全国各地に届けられました。

セノオ楽譜の評価と影響

セノオ楽譜は、日本の名歌と共に海外の歌曲を斬新な訳詞で数多く紹介し、西洋音楽の大衆化に大きく貢献しました。また、レコードの広告にセノオ楽譜の番号を記載するなど、メディアミックスの先駆けともいえる販売方法も特徴的でした。

現在でも多くの古書店でセノオ楽譜が販売されており、国立音楽大学、民音音楽博物館、日本近代音楽館などでセノオ楽譜をテーマにした展覧会が開催されています。2019年には、旧東京音楽学校奏楽堂でセノオ楽譜を使ったコンサートと展示会が開催され、その文化的な価値が再認識されました。

セノオ楽譜にまつわるエピソード

作曲家の古関裕而は、小学生の頃からセノオ楽譜に親しみ、ハーモニカ譜に書き換えて演奏していました。浅草オペラに魅了された際には、「コルネヴィユの鐘」「アルカンタラの医師」「カルメン」などの楽譜を購入したそうです。

1000種類を超えるセノオ楽譜の中でも、山田耕筰の作曲または編曲によるものが51点と最も多く、竹久夢二は270点以上の表紙画と24曲の作詞を手がけています。

まとめ

セノオ楽譜は、大正時代における西洋音楽の普及に大きく貢献した楽譜シリーズです。美しい表紙絵と多様な選曲は、当時の人々の心を捉え、文化的なムーブメントを起こしました。現在でも、その歴史的な価値は高く評価されており、様々な形でその文化が継承されています。

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