セメンタイト

セメンタイト（Cementite）

セメンタイトは、鉄カーバイド（Fe₃C）と呼ばれる化合物で、主に鋼の微細構造において重要な役割を果たしています。その硬さは非常に高く、ビッカース硬度は約1340HVという特性がありますが、その反面、脆い組織でもあります。この物質は、アメリカの冶金学者ヘンリー・マリオン・ハウによって名付けられ、日本では本多光太郎による「脆面体」という表現も存在します。

特性

セメンタイトは、金属である鉄と非金属の炭素が結合した化合物であり、セラミックスの一種に分類されます。腐食に強いという特長もあり、その用途はさまざまです。また、融解した銑鉄が急速に冷却されると、このセメンタイトが主成分の白銑鉄が形成されます。

セメンタイトは斜方晶の結晶構造を持っており、その中心部には炭素原子が位置しています。Fe-C系2元合金では、鉄と炭素が結合できる限界が存在し、特にセメンタイトの炭素量が6.7質量%を超えると、余剰の炭素がグラファイトとして分離することになります。

熱処理と組織変化

セメンタイトの特性は、熱処理によって大きく変化します。特に亜共析鋼、共析鋼、および過共析鋼の各異なる種類において、冷却過程での組織変化が顕著です。

亜共析鋼

亜共析鋼では、炭素が多く溶解したオーステナイトの状態から冷却される際、まず初析フェライトが析出します。この初析フェライトは、オーステナイトの結晶粒界に形成されます。さらに冷却が進み、727℃以下になると、それまで残っていたオーステナイトが変態を起こし、フェライトとセメンタイトからなる層状構造（パーライト）を形成します。結果として、亜共析鋼は初析フェライトとパーライトからなる組織を有します。

共析鋼

一方、炭素が0.77質量%の共析鋼の場合、オーステナイトの状態から727℃以下に静かに冷却すると、フェライトとセメンタイトが混合したパーライトが形成されます。これは、セメンタイトが組織中に均一に分散していることを意味します。

過共析鋼

さらに、過共析鋼では、オーステナイトの状態から冷却することにより、初析セメンタイトがオーステナイトの結晶粒界に析出します。727℃以下になると、残存するオーステナイトが再び変態を起こし、最終的には初析セメンタイトとパーライトからなる複合的な組織が形成されます。

結論

このように、セメンタイトは鋼の特性に深く関わっており、熱処理の過程によってその構造が変わります。鉄鋼の品質や性能を向上させるためには、セメンタイトの理解が欠かせません。関連項目として、鋼、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、オーステナイト、トルースタイト、フェライト相、ソルバイトなどが挙げられます。

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