セラン・セント・ブライン

セラン・セント・ブライン（Ceran St. Vrain, 1802年5月5日 - 1870年10月28日）は、アメリカ合衆国初期の西部開拓時代に、毛皮交易業者、実業家、そして軍人として活躍した人物です。フランス革命の動乱期にアメリカへ渡ったフランス貴族の末裔として、ミズーリ州で生を受けました。フルネームはセラン・ド・オルト・ド・ラサス・ド・セント・ブライン（Ceran de Hault de Lassus de St. Vrain）といい、その名が示すように高貴な血筋を受け継いでいます。

セント・ブラインは、若い頃から冒険心に富み、ニューメキシコ州タオス周辺で交易を行い、現在のコロラド州にあたるノースプラット川近辺で罠猟にも従事しました。これらの活動を通して、彼は西部地域の地理や先住民との関係に詳しくなっていきました。

セント・ブラインの生涯で最も重要な出来事の一つは、ウィリアム・ベントとの共同事業、ベント=セント・ブライン商会の設立です。この商会は、メキシコとの交易で急速に成長しました。ミズーリ州のインディペンデンスとウェストポート間の幌馬車隊による輸送ルートを開拓し、サンタフェやタオスに支店を設けました。取り扱う商品は、アメリカ産の銀、羽、馬、ラバに加え、ネイティブアメリカンの織物、ガラス製品、金属類、タバコなど多岐にわたりました。これらの交易は、当時のアメリカ西部における経済活動を大きく動かす原動力となりました。

ベント=セント・ブライン商会は、コロラド平野東部にベントズ・フォートというアドベ製の頑丈な砦を建設しました。サンタフェ・トレイル沿いに位置するこの砦は、当時、西部で唯一の私有要塞であり、交易の中心地、そして人々の交流の場として重要な役割を果たしました。セント・ブラインの名は、北はスネーク川から南はチワワまで広く知れ渡り、多くの人々から尊敬を集めました。彼の砦を訪れる要人をもてなす際、彼はチャーミングで紳士的だったと伝えられています。

しかし、セント・ブラインの人生は常に順風満帆だったわけではありません。1847年には、タオスの反乱という大きな試練に直面します。この反乱を鎮圧するため、セント・ブラインは自ら軍を編成し、65名の志願兵（中には彼を助けたマヌエル・チャベスのようなニューメキシコ人も含まれていました）を率いて、サンタフェのアメリカ軍部隊に合流し、タオスへ向かいました。彼らは途中で、約1,500人のメキシコ人とインディアンの軍勢と激戦を繰り広げ、見事打ち破りました。その後、反乱軍はタオス・プエブロに退却し、頑丈な壁で覆われたアドベ製の教会に立てこもりました。プエブロ・デ・タオスの包囲戦において、セント・ブラインの「非常旅団」は、アメリカ軍の正面攻撃から逃れようとする敵を阻止するために、教会と山の間を封鎖しました。この戦いで、騎馬志願兵たちは、15分近い激しい戦闘の末、51人のメキシコ人、タオス・インディアン、アパッチ族を討ち取ったとされています。この活躍により、セント・ブラインは軍人としての名声を確立しました。

その後、セント・ブラインは1855年に現在のニューメキシコ州モラ郡を開拓し、そこに製粉所を建設しました。彼は、ニューメキシコ州ラスベガス北部のフォートユニオンやコロラド州南西部のガーランド砦に小麦粉を供給し、地域の経済発展に貢献しました。また、彼はサンタフェ・ガゼット新聞の発行も開始し、ジャーナリズムの世界にも足跡を残しました。

1870年10月28日、セント・ブラインは波乱に満ちた生涯を終えました。彼の葬儀には、近隣のフォートユニオンからの議員団を含む2,000人以上の人々が参列し、軍の栄誉をもって見送られました。彼は、自身の開拓したモラ郡に埋葬されています。セラン・セント・ブラインは、単なる交易商人や軍人としてだけでなく、西部開拓時代の歴史に大きな足跡を残した人物として、今もなお語り継がれています。

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