ウィリアム・ベント

ウィリアム・ベント：西部開拓時代の仲介者

ウィリアム・ベント（William Bent, 1809年 - 1869年）は、アメリカ合衆国南西部で活躍した罠猟師、牧場主です。彼は、西部開拓時代における「インディアン戦争」の最中、シャイアン族をはじめとする先住民と白人入植者との間で重要な仲介役を務めました。

生い立ちと西部への旅

ベントはミズーリ州セントルイスで、州最高裁判事の息子として生まれました。16歳になると、経験豊かな「マウンテンマン」であった兄チャールズ・ベントと共に西部へと移り住みました。1824年、兄弟はミズーリ川を遡り、ビーバーの罠猟を始め、当時利益の大きかった毛皮交易に乗り出しました。しかし、この商売は競争が激しく、やがて二人は開通したばかりの交易路「サンタフェ道」沿いで、新たな商機を求めて交易業を開始しました。

サンタフェ道とインディアンとの出会い

サンタフェ道周辺はコマンチ族の領土であり、白人入植者たちはしばしば襲撃を受けていました。しかし、この交易路はメキシコと合衆国を結ぶ重要なルートであり、商人たちにとっては危険を冒しても魅力的な場所でした。インディアンの事情に精通していたウィリアムは、この地に白人が安全に通行できる経路を開拓しました。また、コマンチ族の襲撃からシャイアン族の戦士を救ったことをきっかけに、シャイアン族との友好関係を築き始めました。

「ベントの砦」の建設と交易

1831年、ウィリアムとチャールズはサンタフェでの商売から撤退し、インディアン相手にバッファローの毛皮交易を始めました。彼らはセラ・セント・ブライアンと共に、コロラド州東部の平原に「ベントの砦」を建設しました。この砦は、当時アメリカ西部で唯一の白人私有の要塞であり、ウィリアムはここで黒人奴隷を使い、交易に励みました。

この砦は、メキシコ、カナダ、ミズーリ川の三点から等距離に位置し、サンタフェ道上にあること、そしてウィリアムとシャイアン族との良好な関係から、南部大平原におけるインディアンと白人の交易の中心地となりました。ウィリアムはシャイアン族の通訳としても活動し、白人入植者とのトラブル解決に尽力しました。1833年11月12日、砦の落成記念にシャイアン族とアラパホー族を招いた際、大規模な流星群が現れました。インディアンたちはこの現象をウィリアムの魔法だと信じ、彼への畏敬の念をさらに深めたと言われています。

シャイアン族との結婚

1837年、ウィリアムはシャイアン族の女性アウル・ウーマンと結婚しました。彼女はシャイアン族の神器「聖なる矢」の守護者であるホワイト・サンダーの娘でした。二人の間には、マリー、ロバート、ジョージ、そしてチャーリーの4人の子供が生まれました。ウィリアムはシャイアン族の酋長ブラック・ケトルとも親交を深め、彼はウィリアムを「小さな白人」と呼んでいました。

米墨戦争と家族の悲劇

1846年、「米墨戦争」が始まると、ベントの砦は米軍に接収され、大平原司令部となりました。ワシントンDCとの繋がりが強かった兄チャールズは、ニューメキシコ領の初代知事に任命されました。しかし、1847年に発生した「タオスの反乱」で、チャールズはタオス・インディアンに殺害されてしまいました。

その数週間後、ウィリアムはシャイアン族の村で、出産直後に亡くなった妻アウル・ウーマンと対面しました。ウィリアムは生まれたばかりの息子に、亡くなった兄の名であるチャールズと名付けました。その後、ウィリアムは妻の妹であるイエロー・ウーマンを妻とし、娘ジュリアをもうけました。

1849年、カリフォルニアで金が発見され、ゴールドラッシュが起こると、白人たちは交易路を荒らし、バッファローを乱獲しました。ウィリアムが物資調達のためにセントルイスへ旅立った際、妻イエロー・ウーマンは子供たちとオーセージ族の祭典に参加しました。そこでコレラが発生し、イエロー・ウーマンは母親と共に子供たちを連れて逃げましたが、母親はコレラで亡くなってしまいました。ウィリアムが戻ると、シャイアン族の半分近くがコレラで命を落としており、他の部族もウィリアムに敵意を抱き始めました。彼は砦を米軍に売却しようとしましたが、不当な扱いを受けたため、砦を爆破し、別の場所に小さな砦を構えました。

人種差別とインディアン戦争

1853年、ウィリアムは家族を連れてセントルイスに戻りましたが、白人たちの人種差別により、混血の子供たちは苦しみました。1858年、コロラド準州のパイクズ・ピークで金鉱が発見されると、白人がインディアンの土地に殺到し、インディアン戦争が激化しました。1861年の南北戦争勃発後、ウィリアムは砦に戻り、セントルイスでの生活に嫌気がさしていた息子ジョージとチャーリーは南軍に加わりました。その後、兄弟はインディアンとして生きることを決意しました。

サンドクリークの虐殺とその後

和平を望んでいたブラック・ケトル酋長の仲介で、ウィリアムは米軍との和平交渉を進めていましたが、ジョン・エバンス知事とジョン・チヴィントン大佐はインディアンを壊滅させる立場をとっていました。1864年11月28日、チヴィントン率いる軍隊はサンドクリークのシャイアン族の野営地を襲撃し、女子供を含む多数のインディアンを虐殺しました。これは「サンドクリークの虐殺」として知られています。この虐殺で、ウィリアムの長男ロバートはチヴィントン軍に捕まり、シャイアン族の野営地を案内させられました。また、ウィリアムの息子ジョージとチャーリーは、米軍への復讐を誓い、交戦派のシャイアン族のグループ「ドッグ・ソルジャー」に加わりました。チャーリーは1867年にコレラで亡くなり、ジョージはシャイアン族の女性と結婚し、調停者となりました。

ウィリアム・ベントはカンザス州に移住し、後にコロラド州で牧場を経営しました。彼はラスアニマス墓地に埋葬されています。

まとめ

ウィリアム・ベントは、西部開拓時代において、インディアンと白人の間で重要な役割を果たした人物でした。しかし、彼の生涯は、人種差別や戦争の悲劇に翻弄された、複雑で苦難に満ちたものでした。彼の物語は、アメリカ西部の歴史における暗い側面を私たちに伝えています。

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