セルゲイ・オルデンブルク

セルゲイ・フョードロヴィチ・オルデンブルク：東洋学の巨人

セルゲイ・フョードロヴィチ・オルデンブルク（1863年-1934年）は、20世紀初頭のロシアを代表する東洋学者の一人です。彼は、インドの古代文学や仏教研究に多大な貢献を果たしただけでなく、中央アジア探検の先駆者としても知られています。その生涯は、学問への飽くなき探究心と、激動の時代を生き抜いた知性と勇気を物語っています。

貴族の血筋と学究の道

オルデンブルクは、ピョートル1世時代にメクレンブルクからロシアに移住した貴族の家に生まれました。ザバイカリエ州ネルチンスク地区で幼少期を過ごした後、ペテルブルク大学で学び、東洋学の道を歩み始めます。1885年の卒業後、同大学で講師、教授を務め、やがてロシア科学アカデミーの常任書記、会員へと昇りつめます。

大乗仏典出版会と国際的な貢献

オルデンブルクの最大の功績の一つは、1897年にロシア科学アカデミーの附属事業として「大乗仏典出版会」を発起したことでしょう。この事業は、『Bibliotheca Buddhica』というシリーズで仏典を刊行するもので、国際的な規模を誇り、1962年までに32冊もの書籍が出版されました。この出版事業は、世界中の仏教研究に多大な影響を与え、オルデンブルクの国際的な名声を確立しました。

中央アジア探検：シルクロードの謎に迫る

オルデンブルクは、単なる研究者ではありませんでした。彼は自ら中央アジアへの探検隊を組織し、シルクロードの遺跡や文化を探求しました。

第一次探検（1909-1910年）: カラシャール、クチャ、トルファン、ハミなど、シルクロードの要衝を調査。
第二次探検（1914-1915年）: 敦煌方面を調査。貴重な文献や美術品を発見し、その後の敦煌研究に大きな足跡を残しました。

これらの探検で得られた知見は、数々の報告書にまとめられ、後世の研究者たちに貴重な資料を提供しています。

政治活動と激動の時代

オルデンブルクは学問の世界だけでなく、政治の世界にも身を投じました。リベラル派の政治家として活躍し、立憲民主党に所属。ロシア臨時政府では文化大臣を務めるなど、政治的にも重要な役割を担いました。しかし、10月革命後は一時拘束されるなど、激動の時代を生き抜くことになります。その後は研究を続けながら、拘束された学者たちの釈放に尽力するなど、人道的な活動にも携わりました。しかし、スターリン時代になると、彼の活動は制限を受けることになります。

学問の継承

オルデンブルクはレニングラードで生涯を終えました。彼の息子セルゲイはジャーナリスト・歴史学者となり、娘ゾーヤ・セルゲーエヴナ（ゾエ・オルダンブール）も歴史学者・作家となりました。オルデンブルクの学問的遺産は、子孫たちによって引き継がれ、発展を続けています。

オルデンブルク研究

オルデンブルクの生涯と業績に関する研究は、現在も続けられています。彼の探検記録や研究論文は、東洋学、考古学、歴史学など、様々な分野の研究者にとって貴重な資料となっています。彼の業績は、単なる学問的な成果にとどまらず、現代社会にまで影響を及ぼす、大きな意義を持つといえるでしょう。

主要参考文献

石浜純太郎「オルデンブルグ記念論文集」（『東洋史研究』1-2、1935年）
江上波夫/マーロフ,S．E．「オルデンブルグ探検の回鶻文書」（『蒙古学』3、1938年）
梅原末治「西域探検家の横顔：ルコック博士とオルデンブルグ先生」（『世界美術全集 月報』14、1952年）
山本達郎「敦煌発見オルデンブルグ及びペリオ将来戸制田制関係文書10種」（『史学雑誌』69-12、1960年）
* 土肥義和「オルデンブルク蒐集の敦煌漢文文書」（『東洋学報』78-4、1997年）

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