セルパン

セルパン：蛇の形をした古楽器

セルパン（serpent）は、フランス語で「蛇」を意味する言葉から名付けられた、独特な形状を持つ木製の金管楽器です。ルネサンス時代からバロック時代にかけて、教会音楽や軍楽隊で低音域を担う楽器として活躍しました。しかし、19世紀半ばに金属製の管楽器が開発されると、その姿を消し、現在では古楽器として知られています。

構造と特徴

セルパンは、文字通り蛇のように曲がりくねった形状が特徴です。管体は円錐形で、主にウォールナット（クルミ）などの木材で作られ、黒やこげ茶色の革で覆われています。マウスピースを備えているため金管楽器に分類されますが、木管楽器のような側面もあります。初期のセルパンにはバルブ機構がなく、リコーダーのように管体の音孔を指で押さえて音程を調節しました。後にキーシステムが開発され、クラリネットのようなキーを備えたものも登場しました。

音域は楽器や奏者によって異なりますが、一般的には中央ハ音の上下2オクターブ程度です。しかし、文献によっては、中央ハ音より2オクターブ以上高い音まで出せるとするものも存在します。また、チューバが発明される以前は、金管楽器の低音域を担う楽器として、中央ハ音より2オクターブ低い音まで出すことができました。

歴史

セルパンは、当初グレゴリオ聖歌の音量を補強するために使用されたと考えられています。18世紀中頃には軍楽隊にも導入され、低音域を支える役割を果たしました。19世紀に入ると、メンデルスゾーンが交響曲第5番で使用するなど、純音楽の分野でも用いられました。

しかし、19世紀半ばには、より音程の正確なオフィクレイドに取って代わられ、さらにオフィクレイドもチューバやユーフォニアムなどのバルブ付き金管楽器に淘汰されました。セルパンは次第に実用される機会を失いましたが、多くの楽器が保存されており、古楽の演奏会などでその音色を聴くことができます。

派生楽器

セルパンからは、様々な派生楽器が生まれました。

セルパン・ミリテール（ミリタリーセルパン）：行進時に持ち運びやすいように改良された楽器です。
バソン・リュス（ロシアン・バスーン）：現代のファゴットのように折り曲げられた管にキーが取り付けられ、竜の形をしたベルを備えています。プロイセンやロシアの軍楽隊で使用されました。
バスホルン：イギリスで開発されたV字型のセルパンで、木製や金属製のものがありました。イギリスの軍楽隊で広く使用され、「イングリッシュバスホルン」とも呼ばれました。
オフィモノクレイド：バスホルンのベルの根元にキーを1つ設置した楽器で、バスホルンの欠点を解消するために開発されましたが、普及することはありませんでした。
コントラバス・セルパン（アナコンダ）：非常に大型のセルパンで、その大きさにちなんで「アナコンダ」という愛称で呼ばれていました。

現代におけるセルパン

現在では、セルパンは古楽器として認識されており、その独特な音色を再現するために、一部の演奏家や愛好家によって演奏されています。また、古楽器の研究や復元においても重要な存在となっています。

日本のセルパン奏者としては、橋本晋哉、長井和明（ロバの音楽座）、東金ミツキなどが挙げられます。

セルパンは、そのユニークな形状と歴史を持つ、魅力的な古楽器です。もし機会があれば、ぜひその音色に触れてみてください。

参考文献

『音楽大事典3 シ−テ』（平凡社、1981年）
『Ontomo mook 楽器博士佐伯茂樹がガイドするオーケストラ楽器の仕組みとルーツ』佐伯茂樹:著（音楽之友社 2018.3）

外部リンク

The Serpent Website

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