佐伯茂樹

佐伯茂樹（さえき しげき）は、1960年11月26日に東京で生まれ、2019年8月1日に急逝した日本の管楽器奏者、音楽評論家、そして楽器・古楽研究者です。彼は、その多岐にわたる活動を通じて、日本の音楽界に大きな足跡を残しました。

生涯と音楽への情熱

佐伯は12歳でトロンボーンとチェロを始め、早稲田大学在学中にトロンボーンを白石直之に師事しました。1986年に早稲田大学を卒業後、東京芸術大学音楽科別科に進学し、長濱幸雄にトロンボーンを学び、クラシカル・トロンボーンをシャルル・トゥートに師事しました。1989年に東京芸大を卒業。

佐伯は、東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ、クラシカル・プレイヤーズ東京、レ・ボレアード、ムジカ・ボエティカ、バッハ・コレギウム・ジャパンなど、国内の著名な古楽オーケストラやアンサンブルで、アルトトロンボーンやオフィクレイドといった古楽器とモダン楽器の両方を演奏しました。2011年には、CD『ショパン、ピアノ協奏曲第1番・第2番』にヴァルヴ・トロンボーン奏者として参加するなど、その演奏技術は高く評価されていました。

音楽評論家としての活動

1998年からは、管楽器専門雑誌『パイパーズ』で「トロンボーン・マスターピース 大作曲家のトロンボーン作品」と「管楽器奏者のための音故知新」という二つの連載を執筆し始め、音楽評論家としての活動を本格化させました。以降、多くの雑誌に記事や論文を掲載し、ディスコグラフィーの解説文や国内外のアーティストへのインタビューも手掛け、その評論活動は多方面から高い評価を得ました。

佐伯は、ヨーロッパの管楽器専門雑誌「BRASS BULLETIN」に「アルトトロンボーンの真実」や「幕末日本に来た西洋音楽」といった論文を発表するなど、国際的にもその研究が認められていました。『レコード芸術』では月評を担当し、レコード・アカデミー賞選考委員も務めました。また、『バンドジャーナル』ではディスクレビューとコラムを、『音楽の友』では「新・名曲解体新書」を連載するなど、幅広い媒体で執筆活動を展開しました。さらに、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京交響楽団の機関紙への連載記事執筆や、東京都交響楽団のキャンペーン「ホールデビューしよう」などのコンサートの監修も担当するなど、その活動は多岐にわたりました。浦安シティオーケストラのトレーナーも務めるなど、後進の指導にも力を注ぎました。

古楽研究と教育活動

佐伯は、19世紀の音楽レパートリーの普及を目的とした演奏団体「東京ヒストリカル・ブラス」を主宰し、オフィクレイドやバスホルンを担当しました。日本各地でコンサートを開催し、管楽器の歴史に関するレクチャーも行い、古楽器の魅力を広く伝えていきました。

2008年8月から2012年4月まで、東京芸術大学大学院で楽曲と楽器に関する講座を担当し、2012年には東京芸大古楽科で集中講義を行いました。また、2012年にはNHK「ららら♪クラシック」、2015年には「N響アワー」にゲスト出演するなど、メディアを通じて音楽の魅力を伝えていきました。彼は楽曲や管楽器に関する著作を多数残し、音楽教育の分野でも大きな貢献を果たしました。

晩年と功績

佐伯茂樹は、2019年8月1日に急性心不全により逝去しましたが、その功績は色褪せることなく、2020年には第32回ミュージック・ペンクラブ音楽賞（クラシック部門／功労賞）が贈られました。

著作

佐伯は、その生涯を通じて数多くの著作を出版しました。単著としては『名曲の「常識」「非常識」:オーケストラのなかの管楽器考現学』、『金管楽器ガイドブック～歴史編 金管楽器の歴史を知ろう』、『知ってるようで知らない管楽器おもしろ雑学事典』、『カラー図解：楽器の歴史』、『カラー図解：楽器から見る吹奏楽の世界』、『カラー図解：楽器から見るオーケストラの世界』、『木管楽器演奏の新理論』、『オーケストラ・吹奏楽が楽しくわかる楽器の図鑑』、『金管楽器演奏の新理論』、『名曲の暗号 : 楽譜の裏に隠された真実を暴く』、『名曲の真相 : 管楽器で読み解く音楽の素顔』、『おもしろ管楽器事典』、『Ontomo mook ピリオド楽器から迫るオーケストラ読本』、『Ontomo mook 楽器博士佐伯茂樹がガイドするオーケストラ楽器の仕組みとルーツ』、『Ontomo mook 佐伯茂樹の本 新名曲解体新書』などがあります。また、共編著として『はじめての楽器、フルートとトランペットの演奏:管楽器のなかまたち』、『リチェルカールの古楽器ガイド』、『おもしろ吹奏楽事典』、『エリック・ミヤシロがガイドする管楽器奏者のための楽器スーパー上達術』など、多くの著書や論文を執筆し、音楽界に多大な影響を与えました。

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