セルビアの国章

セルビアの国章：歴史と象徴

セルビアの国章は、セルビアの歴史とアイデンティティを深く反映した象徴的な紋章です。1882年、セルビア王国の成立と同時に制定されました。社会主義時代には廃止されましたが、2004年に再び国章として採用され、2010年にはデザインが変更されています。

デザインと象徴性

国章の中心には、双頭の鷲が描かれています。この双頭の鷲は、かつてセルビアに大きな影響を与えた東ローマ帝国の象徴であり、中世セルビア王国を築いたネマニッチ朝にも用いられていました。鷲が抱える盾には、赤地に白銀色のセルビア十字が描かれ、その四隅には火打鉄のような紋様が配置されています。このセルビア十字は12世紀から使われており、セルビア国家とセルビア正教会の象徴となっています。

火打鉄の紋様は、セルビア語の「С」の字を模したものだと考えられており、セルビアの非公式モットーである「Само Cлога Србина Cпасава（団結のみがセルビア人を救う）」を表しているという説があります。一方、ギリシャ文字の「Β」を表しており、東ローマ帝国のモットー「ΒΑΣΙΛΕΥΣ ΒΑΣΙΛΕΩΝ ΒΑΣΙΛΕΥΩΝ ΒΑΣΙΛΕΥΣΙΝ（王たちの上に君臨する、王の中の王）」に由来するという説もあります。

双頭の鷲の左右には、金色のフルール・ド・リスが描かれています。これもまた、ネマニッチ朝以来使われている古い紋章です。

大紋章は、双頭の鷲が描かれた盾の後ろを、王のアーミンのケープが覆うデザインとなっています。小紋章は、セルビアの国旗にも描かれており、「コカルダ（Кокарда）」と呼ばれています。

色と素材

国章の色使いも象徴的です。赤い盾はセルビア国家を、盾の中の白銀色の双頭の鷲はセルビアの人々を象徴しています。鷲のくちばし、舌、脚、爪は黄色（金色）で描かれています。

歴史的背景

セルビアの国章は、セルビア王家のオブレノヴィッチ家の紋章と同様のデザインであり、中世セルビア王国の歴史と伝統を継承しています。現在のセルビアは共和国ですが、国章にはセルビア王国の王冠がそのまま残されています。これは、セルビアの歴史と王室への敬意を表していると言えるでしょう。

ユーゴスラビア時代

ユーゴスラビア社会主義連邦共和国時代には、セルビアの国章は、双頭の鷲とセルビア十字を取り除き、簡略化されたデザインに変更されました。これは、社会主義体制下のイデオロギーに合わせた変更でした。しかし、セルビアの国章が復活した際、以前のデザインが基本として採用されたことに、セルビアの歴史に対する深い意識が見て取れます。

まとめ

セルビアの国章は、単なる紋章ではなく、セルビアの歴史、文化、アイデンティティを凝縮した象徴です。双頭の鷲、セルビア十字、フルール・ド・リス、そして王冠といった要素は、それぞれがセルビアの歴史における重要な出来事や象徴を想起させ、セルビアの人々の誇りとアイデンティティを表現しています。その複雑で象徴的なデザインは、セルビアの歴史と文化への深い理解を促し、未来への希望を象徴しています。

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