セントタマニー郡 (ルイジアナ州)

セントタマニー郡は、アメリカ合衆国ルイジアナ州の東部に位置する郡で、ニューオーリンズ都市圏の「北岸」として知られています。2020年の国勢調査によると、人口は約26万4千人を超え、郡庁所在地のコビントンと最大の町であるスライデルが主要な市町村です。この地域は、ポンチャートレイン湖の北に位置し、都市圏内でも裕福な地域とされており、公立学校のシステムが整備され、政治的には保守的な傾向があります。

歴史

前史時代

セントタマニー郡の歴史は、1699年にフランス人探検家ピエール・ル・モワン・ディーバービルがこの地を訪れたことから始まります。ディーバービルの記録によると、当時この地域は草の無い肥沃な土地で、松と硬木の混ざった森林が広がり、バッファローやシカが生息していました。この地にはコラピサ族、バイユーゴーラ族、チカソー族、ビロクシ族、チョクトー族、ペンサコーラ族など、多くのインディアン部族が住んでいましたが、著名なチョクトー族はヨーロッパ人が到来した後にこの地に移住してきたという説もあります。

西フロリダ時代

フランスがニューオーリンズを設立し発展させた後、この地域にもフランス人が入植しました。初期の産業は森林資源を利用したピッチ、タール、テレビン油などの製造でした。フレンチ・インディアン戦争後、この地域はイギリス領西フロリダの一部となりました。その後、アメリカ独立戦争でイギリスが敗北すると、イギリスに続いてスペインがこの地を統治しました。この時期には、13植民地からのイギリス人ロイヤリストが多く移住しました。1810年には西フロリダ革命が起こり、短期間の西フロリダ共和国の後、アメリカ合衆国に編入されました。

郡の創設と命名

1810年、アメリカ合衆国大統領ジェームズ・マディソンは、西フロリダをルイジアナ州の一部と宣言し、ウィリアム・C・C・クレイボーンを派遣してこの地域を接収しました。クレイボーンはフロリダ郡部の境界線を設定し、その際にセントタマニー郡を設立しました。郡の名前は、デラウェア族インディアンの酋長タマネンドに由来します。タマネンドはウィリアム・ペンと友好関係を築いた人物で、その善良さで知られていました。ルイジアナ州には州昇格前に設立された郡名の頭に「セント」がつく郡が9つありますが、セントタマニー郡のみがローマ・カトリック教会から認知された聖人ではありません。しかし、タマネンドはアメリカ独立戦争後の時代に「アメリカの守護聖人」として民間に崇敬されていました。

19世紀

1830年代初頭には、郡内にはコビントンとマディソンビルの2つの町しかありませんでした。コビントンは夏の避暑地として、マディソンビルは造船と製材の町として発展しました。ポンチャートレイン湖北岸の地域は「コビントン低地」と呼ばれ、後にマンデビル、アビタスプリングス、ラコーム、スライデル、パールリバーなどの町ができました。特にマンデビルは、オゾンが健康に良いという誤った説により、ニューオーリンズの富裕層のための保養地として発展しました。その後、ポンチャートレイン湖を渡る渡し舟の定期便が始まり、アビタスプリングスも健康浴の地として発展しました。1880年代には、鉄道がコビントンからアビタスプリングス、マンデビルを経由してニューオーリンズと結ばれ、アビタスプリングスは特に大きく成長しました。

20世紀

ニューオーリンズとその郊外からセントタマニー郡への高速道路（ポンチャートレイン湖コーズウェイと州間高速道路10号線ツインスパン）の完成により、郡はベッドタウンとして発展し始めました。特に郡東部のスライデル周辺では都市スプロール現象が起こりました。ポンチャートレイン湖コーズウェイが1956年に完成し、メテリー郊外と郡西部を結びましたが、マンデビル、コビントン、マディソンビルなどの町が成長を始めたのは1960年代後半でした。1950年代には郡内は人口が少なくほとんどが田園地帯でしたが、2005年にハリケーン・カトリーナが上陸した後には人口が20万人を超えました。2008年には、シェブロンの地域本社がコビントンに移転し、ベッドタウンとしての機能だけでなく、より独立した経済を持つ郡へと変化しました。

2005年 ハリケーン・カトリーナ

2005年、ハリケーン・カトリーナがセントタマニー郡東部を襲いました。台風の目はカテゴリー3の勢力を保ったまま郡の上空を通過し、スライデル、アベリーエステイツ、レイクショアエステイツ、オークハーバー、イーデンアイルズ、ノースショアなどの町が、内陸10キロメートルにも及ぶ高潮で浸水しました。この高潮は、ラコーム、マンデビル、マディソンビルなど、全長92キロメートルの海岸線全体に被害を与えました。特にリゴレット海峡では高潮が4.9メートルに達し、郡東部では2度の高潮に見舞われました。州間高速道路10号線ツインスパンの一部が破壊され、水没しました。アメリカ国道190号線の南では、救出活動が行われ、3000人以上の住民が避難し、300人近くが救出されました。この救出活動では、無線が使用されましたが、電話の緊急通報機能は10日間使用できませんでした。ハリケーンの強風により、郡全体で樹木や電信柱が倒壊し、交通が麻痺しました。瓦礫の処理は2007年まで続き、大量の瓦礫が回収されました。ハリケーン・カトリーナにより、郡内では48,792軒の家屋が損傷しました。

地理

アメリカ合衆国国勢調査局によると、セントタマニー郡の総面積は2,912平方キロメートルで、そのうち陸地が約2,190平方キロメートル、水域が約722平方キロメートルです。水域率は約24.79％です。隣接する郡としては、北にワシントン郡、北東にミシシッピ州のパールリバー郡、東にミシシッピ州のハンコック郡、南にオーリンズ郡とポンチャートレイン湖、南西にジェファーソン郡、西にタンギパホア郡があります。また、ビッグブランチ湿地国立野生生物保護区やボーグチット国立野生生物保護区などの国立保護地域、パール川野生生物管理地域やラムゼイサバンナ湖野生生物管理地域などの州立保護地域も郡内に存在します。

政治

近年のセントタマニー郡は共和党を強く支持しており、2008年の大統領選挙では、共和党のジョン・マケインが76％の票を獲得しました。これは、2004年のジョージ・W・ブッシュよりも高い支持率であり、ハリケーン・カトリーナ後に共和党支持者が多いセントバーナード郡からの移住者が増えたことが要因の一つと考えられています。

都市と町

郡内には、コビントン（郡庁所在地）、マンデビル、スライデルの3つの都市と、アビタスプリングス、マディソンビル、パールリバーの3つの町があります。さらに、フォルサムとサンという2つの村、イーデンアイルとラコームの2つの国勢調査指定地域、そしてアルトンを含む30を超える未編入の町が存在します。

教育

セントタマニー郡の公立学校はセントタマニー郡教育委員会によって運営されています。また、郡内にはサウスイースタン・ルイジアナ大学のキャンパスもあります。

セントタマニー郡は、その歴史、地理、文化、そして政治的な背景から、多面的な魅力を持つ地域です。ハリケーン・カトリーナからの復興と経済成長を続けながら、今後も重要な地域としての役割を果たしていくでしょう。

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