ソウゲンワシ

ソウゲンワシ：草原の王者とその生態

ソウゲンワシ（学名: Aquila nipalensis）は、タカ目タカ科に属する大型の猛禽類です。英名はステップ・イーグル。エジプトの国鳥としても知られています。ロシア、カザフスタン、モンゴル、中国などユーラシア大陸に広く分布し、冬になるとアフリカ南部や中国南部へと渡る、渡り鳥としての側面も持ちます。

その特徴的な形態

体長は62～81センチメートル、翼開長は165～215センチメートルに達し、体重は2～4.9キログラムと、オスよりもメスの方が大きい傾向があります。幼鳥は翼や尾に白いラインが見られますが、4～5歳で成鳥になると全身茶褐色になります。かつては近縁種であるサメイロイヌワシと同一種と考えられていましたが、生態調査の結果、別種であることが判明しました。

ソウゲンワシの大きな特徴の一つは、獲物を丸呑みできるほどの大きな嘴です。これは目のふちまで切れ込んでおり、イヌワシやサメイロイヌワシとは異なる識別点となっています。また、飛行時の翼の形も独特で、サメイロイヌワシのように尺骨側手根骨部が弓なりになるのではなく、イヌワシのように直線的な翼で滑空します。地上や岩場を歩くのに適した足は、比較的短く太短い指を持っています。

生態：草原を我が物顔に

ソウゲンワシは、その名のとおり、開けた草原やサバンナに生息します。大型のワシですが、意外にも一日中地面や岩場、電柱などに止まって過ごすことが多く、やや怠惰な面も持ち合わせています。しかし、生活環境には非常に敏感で、越冬地でも雨量の変化によって局所的に移動するなど、独特の習性を示します。

春には、イスラエルのエイラットで3万羽にも及ぶソウゲンワシの渡りが観測されるなど、長距離移動を行うことが知られています。冬場は100羽以上の群れを形成し、他の猛禽類、特にトビやアシナガワシと混群することもあります。

食性：狩猟より略奪と死肉漁り

ソウゲンワシは、自ら積極的に狩りをすることはあまり多くありません。他の猛禽類が捕獲した獲物を略奪したり、死肉を食べるスカベンジャーとしての側面が強いと言えます。ただし、腐肉ではなく、新鮮な死肉しか食べないという特徴があります。そのため、死肉に群がる他の猛禽類と混じり合う光景もよく見られます。

メス同士の餌をめぐる争いは非常に激しく、頭突きやタックルで相手を威嚇・攻撃します。餌が乏しい時期や冬場には、バッタ、イナゴ、シロアリなどの昆虫や、小型の鳥類（スズメ目コウヨウチョウなど）、爬虫類、げっ歯類（ジリス、ネズミなど）を捕食することもあります。しかし、空中から狩りを仕掛けることは少なく、地上を歩いている際に発見した獲物を捕食するというスタイルを取ります。ハタネズミの巣穴付近で待ち伏せしている姿も観察されており、このため、巣をネズミの巣穴近くに作ることも多いと考えられています。

渡り鳥であるソウゲンワシの食性は、生息地によって大きく変化します。ロシアでは小さなげっ歯類や小動物を、渡りの最中では死肉を、南部の越冬地ではアリ塚を壊してシロアリを大量に食べ、死肉を補足的に食べるなど、その食性は多様性に富んでいます。

繁殖：生涯を共にするパートナー

ソウゲンワシは、生涯同じパートナーとつがいを組み、年に一度、春から夏にかけて1～4個の卵を産みます。巣は樹上、岩場、地上などに作られますが、電柱や廃棄された自動車の上などに作られるケースも確認されています。カザフスタンでの調査（2003～2006年）では、263個の巣のうち、地上に30.4%、樹上または低木に28.3%、電柱に27.3%が作られていたことが報告されています。

人間との関わり：国鳥からペットまで

カザフスタン共和国国旗の中央には、太陽の下にソウゲンワシが描かれています。また、国旗の左端には、ソウゲンワシの翼をモチーフとした伝統的な文様も描かれています。ロシアでは、家畜を守るためにソウゲンワシを調教し、オオカミから家畜を守る番鳥として利用する事例があります。

ソウゲンワシは賢く、順応性も高い鳥であり、適切な飼育と調教によって人間になつき、コンパニオンバードやショーバードとして飼育されることもあります。近年では、人工飼育された個体が日本にも輸入されるようになりましたが、元来の気性は激しく神経質で、強靭な嘴と爪を持つため、飼育は容易ではありません。2011年には、飼育個体が東京で逃げ出す事件が発生しましたが、翌日発見されました。平成26年（2014年）2月1日からは特定動物に指定されているため、飼育には都道府県からの許可が必要です。日本でソウゲンワシの飼育実績のある施設としては、大阪市天王寺動物園、ヨーデルの森、松江フォーゲルパークなどが知られています。

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