ソウル江南トイレ殺人事件

2016年5月17日、ソウル江南のカラオケバーのトイレで、34歳の男が23歳の女性を刺殺するという、衝撃的な事件が発生しました。この事件は、ソウル江南トイレ殺人事件、瑞草洞トイレ殺人事件、あるいは江南駅通り魔殺人事件とも呼ばれています。

事件当日、午前0時33分頃、男はカラオケバーのトイレに入り、その約30分後、午前1時7分にトイレに入ってきた女性を、持っていた32.5cmの包丁で左胸部を4回突き刺しました。男は現場で逮捕され、警察の取り調べに対し、普段から女性に無視されていたこと、被害女性とは面識がないことを供述しました。

捜査の結果、男には過去に4回の精神科への入院歴があり、2016年1月に退院したばかりであったことが判明しました。警察は、男の精神状態を詳しく分析する必要があると判断し、プロファイラーによる犯行心理の分析も行いました。その結果、男は思春期から妄想症状があり、2008年に統合失調症と診断されていたこと、治療のため6回入院したものの、2016年1月上旬の退院後に薬の服用を止めていたことが分かりました。また、事件の1年以上前から入浴を怠り、アルバイト先のレストランで衛生状態を注意された際、女性から中傷されたと思い込み、犯行に至ったと見られています。

裁判では、検察は男に終身刑を求刑しましたが、ソウル中央地方裁判所は懲役30年の有期刑を言い渡しました。この判決は、その後の控訴審、そして最高裁判所でも維持され、懲役30年が確定しました。

この事件は、逮捕された男が「普段女性に無視されていたから犯行を行った」と供述したことから、女性嫌悪による犯罪、いわゆるフェミサイドであるという議論を呼び起こしました。事件後、現場近くの江南駅10番出口には、被害者を追悼し、女性嫌悪に対する抗議のメッセージが書かれた付箋や花が大量に寄せられました。また、ホワイトリボンキャンペーンも呼びかけられました。しかし、一方で警察は、プロファイリングの結果、男の犯行は統合失調症による妄想に基づくもので、精神疾患によるものだと結論付けました。この警察の見解に対し、SNS上では、事件を安易に女性嫌悪犯罪と断定することは論理の飛躍であるという批判もありました。この事件が、社会に大きな波紋を投げかけたことは間違いありません。

医療従事者からは、精神疾患を理由に犯罪が矮小化されることに対する懸念も表明されました。2019年の調査では、統合失調症患者の犯罪率は一般より低いものの、殺人については約5倍高いという結果が出ており、統合失調症患者に対する適切な管理とケアの必要性が指摘されています。また、事件が発生したカラオケバーのトイレが施錠できなかったため、防犯上の問題点も指摘されています。

この事件は、社会における女性に対する暴力、精神疾患患者への支援、そして公共施設の安全対策など、様々な課題を浮き彫りにしました。この悲劇を教訓とし、より安全で、誰もが安心して暮らせる社会の実現が求められます。

参考資料:

フェミサイド
女性に対する暴力
小田急線刺傷事件
モントリオール理工科大学虐殺事件
2018年トロント車両暴走事件
トイレで亡くなった人物の一覧

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