ソステヌート (ショパン)

フレデリック・ショパンが手掛けたピアノ作品の一つに、「ソステヌート 変ホ長調 KK. IVb-10」があります。これは、ショパンの他の多くの作品とは異なり、彼の生前には出版されず、比較的後年に発見された小品です。

本作は1952年、イギリスの個人の手元でその存在が確認され、3年後の1955年4月になってようやくロンドンのフランシス・デイ＆ハンター社より初めて刊行されました。この作品はショパンの弟子のエミール・ガイヤールに献呈されたものであり、現在パリ音楽院が所蔵する自筆譜には、「1840年7月20日 パリにて」と、作曲された日付と場所が記されています。この日付は、ショパンが精力的に作曲活動を行っていた時期にあたります。

この「ソステヌート 変ホ長調」は、その緩やかなテンポと4分の3拍子という特徴から、時にワルツとして扱われることがあります。ワルツ全集に含められる際には、他の既知のワルツに続く形で通し番号の第18番が付与されることもあります。しかしながら、分類については議論の余地があり、前述の自筆譜に記されているのは「ソステヌート (Sostenuto)」という速度指示のみであり、「ワルツ」という標題は一切見られません。この点を重視する研究家も少なくなく、例えば著名なショパン研究家であるモーリス・ブラウンは、本作をワルツではなく、より内省的な性格を持つマズルカ、あるいは夜想曲として位置づけるべきだという見解を示しています。

楽曲は変ホ長調で書かれており、速度記号は「ソステヌート」、すなわち音を十分に保って演奏するよう指示されています。形式としては二部形式が採用されています。旋律には、基本的な調性である変ホ長調の音階からは外れるF#（嬰ヘ音）やC♭（変ハ音）といった音が効果的に含まれており、これが独特の色彩感を与えています。後半部では調的な大きな変化は起こりませんが、特に左手の低音域で奏されるメロディが印象深く、どこか憂いを帯びた雰囲気を醸し出しています。

楽譜にはダ・カーポ（曲の冒頭に戻って繰り返す）の指示は明記されていません。しかし、楽譜の校訂を手掛けた音楽家の関孝弘は、前半部を反復して三部形式として演奏することも、楽曲構成上十分に考えられる一つの解釈であると示唆しています。

教育的な側面では、この楽曲がパリ音楽院におけるサイトリーディング（初見演奏）試験に用いられた実績があります。その際の試験課題としての題名は「Lecture à vue」（フランス語で「初見」の意）であったと記録されています。

このように、「ソステヌート 変ホ長調 KK. IVb-10」は、その発見・出版の経緯やジャンル分類の曖昧さ、そして内包する独特の音楽語法によって、ショパンの創作活動の一端をうかがわせる興味深い作品と言えるでしょう。多くのピアノ学習者や愛好家によって演奏され、親しまれています。

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