ソニック・クルーザー

ソニック・クルーザー（Sonic Cruiser）

ソニック・クルーザーは、アメリカの航空機メーカーであるボーイングがかつて開発を計画していた旅客機です。その構想は、2006年に実用化される予定でしたが、いくつかの要因により開発は2002年12月に中止されました。ソニック・クルーザーは、特にエアバスA380に対抗する新たな中型機として位置付けられていましたが、経済性の不安や時代背景からその実現は叶いませんでした。

開発の推移

ボーイング社は、エアバスがA380の開発を始めた約3ヶ月後の2001年3月26日に、高速で巡航可能な中型機の開発に着手することを発表しました。この中型機は、マッハ0.95以上の巡航速度、40,000フィート（約12,000メートル）を超える高度、そして100～300席の客室を持つ予定でした。航続距離は7,500～9,000海里（約16,600キロメートル）を想定していました。しかし、具体的な設計や詳細が未定のままでの発表であったため、業界内での信頼感は薄れていきました。

高速機開発の理由

航空路線の多様化により、中型機へのニーズが高まっていると判断したボーイング社は、747Xの開発を延期しソニック・クルーザーの開発を優先しました。新たに地方都市間の直行便が増えることで、大型機の必要性が減少すると見込んでいたのです。ただし、エアバス社はこの見解に異論を唱え、依然として乗客が集中する路線が存在するため、大型機の役割は重要だと主張しました。

機体の設計

ソニック・クルーザーのデザインは、従来の旅客機とは大きく異なり、主翼は機体の後部に配置され、翼形はダブルデルタ翼と呼ばれる独特の形状を採用していました。また、前部には先尾翼が装備され、エンジンは機体の後ろに二基搭載される計画でした。エンジンの形状も、より抵抗を抑えるために工夫されていました。しかし、パリ・エアショーの2002年には、設計の変化から一般的な旅客機に近い形状に変更されており、計画が実現するかどうか疑問視されることも多くなりました。

利点と欠点

ソニック・クルーザーの巡航速度は音速には届かず、M0.95～0.98の範囲となっています。これは超音速旅客機が直面する騒音問題や設計上の制約を回避するための方策でした。しかし、経済性の観点から見れば、速度の向上が実際に運賃に与える影響は限られており、経済性が求められる航空業界においてはその利点が相殺される可能性もあったのです。

課題と有用性

ソニック・クルーザーにとって最大の課題は、その速度面よりも経済性でした。同じような巡航速度の旅客機は過去にも存在しており、現行の機体と比べて結果的に燃料消費が多くなる点が懸念材料でした。理論上は高速巡航によってコストを抑えることが可能だとされていましたが、具体的なデータに基づく証明が不足していました。このため、ボーイングは燃料効率に関する信頼性の高い証拠を顧客に提示できず、開発に不安を抱かせる要因となったのです。

開発中止

最終的に、ソニック・クルーザーはアメリカ同時多発テロ事件の影響を受け、航空業界全体の低迷も伴い、コストの高騰から開発は凍結されました。この計画はその後、787型機の開発へとつながっていきました。初期の段階での設計の不透明さから、一部ではソニック・クルーザーが実際には単にエアバスA380との競争のための「名目上」の機体として発表されただけではないかとする見方も広がっています。

もう一度検索