ソビエト大飢饉 (1932年-1933年)

1932-1933年ソ連大飢饉：数百万の犠牲者を出した悲劇

1932年から1933年にかけて、ソビエト連邦を未曽有の大飢饉が襲いました。ウクライナ、北コーカサス、ヴォルガ地域、カザフスタンなど、主要な穀物生産地で深刻な食糧不足が発生し、推定で数百万人、最大で1000万人以上もの人々が命を落としました。この大飢饉は、単なる自然災害ではなく、スターリン政権による農業政策の誤りと、意図的な人道無視が深く関与した悲劇として認識されています。

背景：農業集団化とクラーク撲滅

この大飢饉の前史として、1921年から1922年にはすでにロシアで深刻な飢饉が発生していました。しかし、1932-1933年の飢饉は規模において桁違いに大きく、その背景にはスターリン政権が進めた急進的な農業集団化政策と、富農（クラーク）撲滅運動が大きく関わっています。

集団化とは、個々の農家を強制的に集団農場（コルホーズ）に編入する政策です。この政策は、食糧生産の効率化と社会主義体制の強化を目的としていましたが、実際には農民の反発を招き、農業生産力を低下させる結果となりました。農民の抵抗を「クラーク」による妨害と見なした当局は、彼らを弾圧し、シベリアなどの強制収容所（グラグ）へ送るなど、徹底的な弾圧を行いました。

集団化への抵抗や、個人の私有地を維持しようとした農民は「クラーク」とレッテルを貼られ、強制的に集団農場に組み込まれるか、もしくはシベリアなどへの強制移住を強いられました。この政策は農業生産に壊滅的な打撃を与え、収穫量は激減、家畜も大量に死滅しました。牛と馬は半減、羊と山羊は三分の一にまで減少するなど、農業基盤そのものが破壊されつつあったのです。

飢餓の拡大と犠牲者

にもかかわらず、スターリン政権は穀物の強制調達を継続しました。結果として、ウクライナ、北カフカサス、ヴォルガ流域、カザフスタンなどでは、1932年から1934年にかけて大規模な飢饉が発生、数百万人が餓死しました。ウクライナにおける犠牲者は、330万人から600万人に上ると推定されています。ウクライナではこの飢饉を「ホロドモール」（Holodomor、意：虐殺による飢餓）と呼び、民族浄化と捉える見方も存在します。

歴史学者ロバート・コンクエストは、この時代のソ連農業政策による犠牲者数を詳細に推計し、飢饉による直接の死者だけでなく、集団化や弾圧による間接的な犠牲者も含めて計上しています。ただし、犠牲者数の算定には様々な見解が存在し、確定的な数字は未だに存在しません。

その後と歴史的評価

1934年には穀物収穫量が回復しましたが、その後も飢饉の脅威は続き、1946年から1947年には旱魃による大規模な飢饉が再び発生、100万人以上の犠牲者を出しました。

この1932-33年の大飢饉については、ソ連時代には徹底的に情報統制が敷かれ、事実を語ることは極めて困難でした。作家ミハイル・アレクセーエフやパステルナークも、この悲劇を自身の作品に書き残そうとしましたが、検閲によって公表されることはありませんでした。

今日では、この大飢饉はスターリン体制の残虐性と、その政治的・経済的政策の失敗を象徴する出来事として認識されています。この悲劇を正しく理解し、歴史から学ぶことは、未来への教訓となるでしょう。 多くの研究論文や歴史書が、この大飢饉の全貌解明に挑み続けています。その詳細な分析には、農業政策の失敗、意図的な穀物没収、そして人道支援の欠如など、様々な要因が絡み合っていることが指摘されています。

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