ソビエト連邦の映画

ソビエト連邦の映画：社会主義リアリズムと国策映画

ソビエト連邦の映画産業は、その歴史を通して、政治イデオロギーと密接に結びついていました。モスクワ中央政府の統制下にあったものの、構成共和国それぞれの文化や歴史的要素も反映されており、ロシア、ウクライナ、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージアなどの共和国が特に活発な映画製作を行っていました。

黎明期と社会主義リアリズムの導入

ウラジーミル・レーニンは、映画を大衆への共産主義教育に不可欠な手段と捉え、1919年には映画産業の国有化を断行しました。その後、1922年には映画事業の体系化、検閲の導入などが行われ、1925年には主要な映画会社が統合されてソフキノが設立されました。

映画は、国家による徹底的な管理と検閲の下、社会主義リアリズムという新しい美学が導入されました。これは、プロレタリアートの美徳を賛美し、ソビエト体制を肯定的に描くことを重視したものでした。セルゲイ・エイゼンシュタインの『戦艦ポチョムキン』はその代表的な作品と言えるでしょう。この作品は、大胆な演出とプロパガンダ的な要素を駆使し、世界的に高い評価を受けました。

1920～1940年代：ドキュメンタリーとミュージカルコメディーの隆盛

1920年代には、ジガ・ヴェルトフによるキノ・プラウダなどのドキュメンタリー映画が発展し、ソビエト映画の基礎を築きました。また、モンタージュ編集技術を駆使した歴史劇や革命映画も制作されました。ウクライナのオレクサンドル・ドヴジェンコは、詩的で力強い作品で知られています。

1930年代には、ミュージカルコメディーが人気を博しました。グレゴリー・アレクサンドロフとリュボーフィ・オルローヴァのコンビは、数々のヒット作を生み出し、社会主義リアリズムの枠組みの中で、娯楽性と社会風刺を巧みに融合させました。

しかし、1948年には閣僚評議会による決議が採択され、映画産業はさらに厳格な管理下に置かれました。質より量を重視する傾向が強まり、共産主義思想の徹底的な宣伝が求められたのです。スターリンは、制作された映画の内容を最終的に承認する権限を握っていました。

トロフィーフィルムの上映と社会への影響

第二次世界大戦後、ソビエト連邦では、映画の供給不足が深刻な問題となりました。そこで、戦後占領地域から持ち込まれたドイツなどの映画（トロフィーフィルム）が上映されるようになりました。これらは、ソビエトのイデオロギーとは必ずしも一致しないものも含まれていましたが、莫大な利益をもたらし、国民の娯楽需要を満たしました。しかし、これらの映画は同時に、検閲や批判の対象にもなり、社会に大きな影響を与えました。

1950～1980年代：シェイクスピア映画化とペレストロイカ

1950～70年代には、シェイクスピアの戯曲を原作とした映画が多く製作されました。グリゴーリ・コージンツェフの『ハムレット』や『リア王』などは特に有名です。また、黒澤明監督がソビエト連邦で製作した『デルス・ウザーラ』は、高い評価を受けました。

ペレストロイカとグラスノスチの政策により、1980年代には検閲が緩和され、ソビエト社会のより暗い側面を描いた「チェルヌハ」と呼ばれるジャンルが登場しました。『小さなベラ』はその代表的な作品と言えるでしょう。

まとめ

ソビエト連邦の映画は、社会主義リアリズムというイデオロギーの下、国家の厳格な管理と検閲の中で発展しました。しかし、その過程で、多くの才能ある監督や作品が生まれ、世界映画史に大きな足跡を残しました。ソビエト映画の歴史は、政治と芸術の複雑な相互作用を示す重要な事例と言えるでしょう。

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