ソユーズMS-14

ソユーズMS-14は、2019年に行われたロシアの宇宙ミッションで、国際宇宙ステーション（ISS）へソユーズ宇宙船を輸送することを目的としていました。このミッションは、特に新型ロケットの試験など重要な技術評価を兼ねており、無人の状態で実施された点が大きな特徴です。

ミッションの背景と目的

ソユーズMS-14ミッションが無人で行われた主な理由は、新しい「ソユーズ2.1a」型ロケットに搭載された緊急脱出システムの性能を実際の飛行で検証することでした。これは、将来の有人打ち上げにおいて安全性を保証するために不可欠なテストです。また、このフライトでは、開発中の新型航法システムや、宇宙船の姿勢を精密に制御するためのシステムの試験も同時に実施されました。

打ち上げ

ソユーズMS-14は、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、2019年8月22日、協定世界時（UTC）03時38分に打ち上げられました。ソユーズ2.1aロケットは順調に飛行し、宇宙船は計画通りの軌道に投入され、打ち上げ自体は成功しました。

歴史的な意義

このミッションは、ロシアの宇宙開発史においていくつかの重要な「初めて」を含んでいました。ソユーズ宇宙船が無人の状態で打ち上げられたのは、1985年のソユーズT-15号以来、実に33年ぶりの出来事でした。さらに、ソユーズMSシリーズとして、ソユーズ2.1a型ロケットが使用されたのもこれが最初です。そして、国際宇宙ステーションに無人のソユーズ宇宙船が自律的にドッキングを成功させたのも、このソユーズMS-14が初めてのこととなりました。

搭載物

ソユーズMS-14には、技術試験装置の他にもいくつかの重要なペイロードが搭載されていました。その一つが、宇宙空間での船外活動（EVA）やメンテナンス作業などを支援することを目的としたヒューマノイドロボット「FEDOR（フョードル）」です。また、地球を周回しながら超高エネルギー宇宙線を観測する国際協力プロジェクトである「EUSO計画」に関連する観測装置の一部も積み込まれました。

ISSへのドッキング

ISSへのドッキングは、ミッションの中で最も緊張を伴う段階の一つでした。
最初のドッキング試行は、打ち上げから2日後の2019年8月24日05時30分（UTC）に行われましたが、成功には至りませんでした。原因は、ISSの「ポイスク」モジュールに設置されたドッキングポート側の無線機器と、ソユーズMS-14に搭載されている「クルス」自動ドッキングシステムとの間で通信に関する問題が発生したためです。この不具合を受けて、管制センターは安全を最優先し、ドッキング作業を中断してソユーズMS-14をISSから安全な距離まで遠ざけました。

その後、ロシアの管制チームは原因究明と対策を講じ、ドッキングポートをISSの別のモジュールに変更する判断をしました。そして、3日後の2019年8月27日03時08分（UTC）に、ISSの「ズヴェズダ」サービスモジュールに設けられた別のドッキングポートへの再度のドッキング試行が行われました。この二度目の挑戦は見事に成功し、ソユーズMS-14はISSとの結合を果たしました。

地球への帰還

ISSでの所定の試験や作業を終えたソユーズMS-14は、帰還の途につきました。宇宙船は2019年9月6日21時32分（UTC）にISSから分離し、地球への降下を開始しました。搭載されていたヒューマノイドロボット「FEDOR」と共に、カザフスタン共和国の中央部、カラガンダ州ジェスカスガン南東部の広大な草原地帯にある着陸予定地点に向けて正確に誘導されました。大気圏再突入、パラシュート展開を経て、無事目標地点への軟着陸を成功させ、この無人ミッションは完了しました。

将来への貢献

ソユーズMS-14が無人飛行で得た貴重な経験と技術データは、今後のロシアの宇宙開発において重要な基盤となります。特に、国際宇宙ステーションへの物資輸送を担うために現在開発が進められている新型の無人貨物船「ソユーズGVK」の設計や運用方法に、このミッションで得られた知見が大いに活用される予定です。無人での精密な飛行制御やドッキング技術の確立は、将来の宇宙輸送システムにとって不可欠な要素であり、ソユーズMS-14はその実現に向けた大きな一歩となりました。

当初計画との違い

補足として、ソユーズMS-14は当初、現在とは異なるミッションとして計画されていました。元々は、2019年10月に打ち上げが予定されていた有人宇宙船であり、国際宇宙ステーションでの第61次長期滞在に参加する3名の宇宙飛行士（ロシア人2名、アメリカ人1名）をISSへ輸送することを目的としていました。しかし、前述の通り、新型ロケットシステムの安全試験を優先するという方針変更により、無人での試験飛行へと切り替えられた経緯があります。

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