ソユーズT-14

ソユーズT-14

ソユーズT-14 (Союз Т-14 / Soyuz T-14) は、ソ連（当時）が運用したサリュート7号宇宙ステーションへの定期有人ミッションとして9回目にあたる飛行計画です。このミッションの主要な目的の一つは、ソユーズ宇宙船をサリュート7号における医療上の緊急事態に対応可能な脱出船として常に待機させるという運用ノウハウを蓄積することでした。皮肉にも、このミッション自体が予期せぬ健康上の問題に直面することになります。

当初、ソユーズT-14の飛行期間は約6ヶ月間が予定されていました。しかし、船長を務めたウラジーミル・ヴァシューチンの健康問題が発生したことにより、ミッション期間は大幅に短縮され、早期に終了せざるを得ない状況となりました。

本ミッションには、サリュート7号に結合する改良型無人輸送補給船TKSを「コスモス1686号」として運用すること、そして将来的な宇宙ステーションでの活動を見据えた船外活動（宇宙遊泳）を実施するという、二つの重要な目標が設定されていました。前者の、コスモス1686号とのドッキング及び運用は、10月2日に無事達成されました。しかし、10月末に発生したヴァシューチン船長の体調不良により、後者の船外活動計画は実行に移されることなく終わりました。

ヴァシューチン船長の体調は回復せず、11月13日には地上管制センターとの間で緊急交信が行われました。これを受け、ソユーズT-14に乗る乗組員たちは地球への緊急帰還を決定し、実行に移されました。ミッションの早期終了に関する公式な発表や詳細は限られていましたが、複数の情報源から様々な説が挙げられています。

アメリカ航空宇宙局（NASA）が後に公開した情報によると、ロシア連邦宇宙局の心理学者は、ミッション早期終了の要因として、乗組員の「気分やパフォーマンスに関する問題 (mood and performance issue)」を挙げたともされています。これは、閉鎖環境における長期間の滞在が乗組員の精神状態や協調性に影響を与えた可能性を示唆するものです。しかし、これとは別に、ヴァシューチン船長が尿路感染症にかかり、高熱を発症したことがミッション短縮の直接的な原因であるとする説も有力視されています。どちらの説が真実であるにせよ、宇宙空間での健康管理や精神的な安定維持の重要性を改めて浮き彫りにする出来事となりました。

結局、約6ヶ月の予定であったミッションは、わずか50日余りで終了することとなりました。しかし、この予期せぬ出来事は、ソユーズ宇宙船を宇宙ステーションの医療用緊急避難船として適切に運用し、緊急時に迅速な帰還を行うための貴重なノウハウを蓄積する機会となりました。

ソユーズT-14ミッションの乗組員は以下の通りです。

出発時

ウラジーミル・ヴァシューチン (1回目の宇宙飛行)
ゲオルギー・グレチコ (3回目の宇宙飛行)
アレクサンドル・ヴォルコフ (1回目の宇宙飛行)

帰還時

ウラジーミル・ヴァシューチン (1回目の宇宙飛行)
ヴィクトル・サヴィヌイフ（2回目の宇宙飛行）
アレクサンドル・ヴォルコフ (1回目の宇宙飛行)

バックアップ乗組員

アレクサンドル・ヴィクトレンコ
ゲンナジー・ストレカロフ
* Yevgeni Saley

このミッションは、宇宙開発における技術的な挑戦だけでなく、人間の生理的・心理的な側面がミッションの成否に大きく関わることを示す、重要な事例として記憶されています。

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