ソユーズT-5

ソユーズT-5（ロシア語: Союз Т-5、英語: Soyuz T-5）は、1982年5月13日にソビエト連邦によって実施された有人宇宙飛行ミッションです。このミッションは、新たに軌道上に設置された宇宙ステーション「サリュート7号」へ向かう初めての有人飛行として計画されました。ソユーズT-5には「エルブルス山」というコールサインが付与されていました。

搭乗員構成

サリュート7号へ出発した際の乗組員は、機長のアナトリー・ベレゾボイとフライトエンジニアのヴァレンチン・レベデフの2名でした。彼らはサリュート7号に長期滞在し、ステーションのシステムを活性化させ、様々な科学実験や技術試験を行うことを任務としていました。このミッションのバックアップクルーは、ウラジーミル・チトフ（機長）とゲンナジー・ストレカロフ（フライトエンジニア）でした。

ソユーズT-5はサリュート7号にドッキングした状態で比較的長期間運用されました。その間に、他のソユーズ宇宙船、具体的にはソユーズT-6とソユーズT-7がサリュート7号を訪れ、短期の共同ミッションや乗組員の入れ替えが行われました。特にソユーズT-7には、ソビエトの女性宇宙飛行士として二人目となるスベトラーナ・サビツカヤが搭乗し、サリュート7号で作業を行いました。

ソユーズT-5が地球へ帰還する際には、当初の乗組員であるベレゾボイとレベデフに代わり、サリュート7号に滞在していた他のクルーの一部が乗り込みました。帰還時の乗組員は、機長のレオニード・ポポフ、フライトエンジニアのアレクサンドル・セレブロフ、そして研究者のスベトラーナ・サビツカヤでした。これにより、ソユーズT-5はサリュート7号への人員輸送だけでなく、一部のクルーを地球へ送り返す役割も担いました。

軌道上での主な活動

サリュート7号にドッキングした後、ベレゾボイとレベデフはステーション内部のシステムを起動・確認し、長期滞在のための環境を整備する作業に多くの時間を費やしました。ミッション期間中、ソユーズT-5とサリュート7号は合計で地球を3344周しました。

宇宙ステーションの運用には、地上からの補給が不可欠です。ソユーズT-5の滞在中、プログレス補給船（プログレス13号など）がサリュート7号にドッキングし、燃料、水、食料、実験機器などの物資を運び込みました。1982年5月25日には、プログレス13号がドッキングした状態で、サリュート7号の姿勢を安定化させるための軌道調整が行われました。この際、ステーションの姿勢を重力傾斜安定化に適した向きにするため、プログレス補給船の船尾側が地球に向けられました。フライトエンジニアのヴァレンチン・レベデフは、自身の日記の中で、この時の姿勢制御用ジェットの騒音を「大ハンマーで樽を叩いているような音」と表現し、その激しさを伝えています。

翌日には、プログレス13号からサリュート7号への燃料移送が実行されました。この作業は主に地上管制センターによって制御されましたが、乗組員は監視を行いました。また、5月29日には、プログレスから運び込まれた大量の物資をステーション内部へ収納する作業が行われました。レベデフは日記に、不必要なものまでロープに繋いだまま運び込んだこと、そして荷物でぎゅうぎゅう詰めになった宇宙船内部が金属音で響き渡り、「まるでブラスバンドの中にいるようだった」とその時の状況をユーモラスに書き記しています。5月31日には、プログレス13号からサリュート7号へ約300リットルの水が移送されました。

また、軌道上での活動の一環として、ミッション中に他の宇宙船を迎えるための軌道調整も実施されました。例えば、1982年6月2日には、後に到着するソユーズT-6とのランデブーおよびドッキングを容易にするため、サリュート7号の軌道高度が約300km下げられました。

特筆すべき出来事として、1982年5月17日に、アマチュア無線家によって製作された重量28kgの小型電波衛星「イースクラ2号」が、サリュート7号のごみ捨て用エアロックを利用して宇宙空間に放出されました。ソビエト連邦当局は、この放出を「有人宇宙船からの初の通信衛星の打ち上げ」と位置づけましたが、これは静止軌道に投入されるような本格的な通信衛星とは性質が異なりました。その後、同年11月にはアメリカ合衆国がスペースシャトルSTS-5ミッションにおいて、商業通信衛星を含む2基の大型静止衛星を軌道へ投入しています。

ミッションの意義

ソユーズT-5ミッションは、ソビエト連邦の宇宙ステーション計画において非常に重要な節目となりました。サリュート7号の運用を成功裏に開始させたことで、長期にわたる有人宇宙活動の新たな基盤が築かれました。このミッションを通じて得られた長期滞在技術、宇宙での科学実験のノウハウ、そして複数の宇宙船との協調運用に関する経験は、後の宇宙ステーション「ミール」や国際宇宙ステーション（ISS）の建設・運用に不可欠なものとなりました。ソユーズT-5は、宇宙における持続的な人間のプレゼンスを確立する上で、歴史的な一歩を記した飛行と言えます。

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