ソロモン・ケーン

ソロモン・ケーン

ソロモン・ケーンは、20世紀前半のパルプ・フィクション界で活躍した作家ロバート・E・ハワードによって創造された、特徴的な架空のキャラクターです。彼の冒険は、歴史上の時代設定である16世紀を舞台に繰り広げられます。厳格な清教徒でありながら、安住の地を持たず、世界中を股にかけて旅を続ける放浪の冒険家です。

彼の旅路は、生まれ故郷ともいえるヨーロッパ大陸から始まり、遠く離れたアフリカの「暗黒大陸」と呼ばれる未知の領域、そしてその深いジャングルへと及びます。その目的は、単なる探検ではなく、行く先々で遭遇する様々な邪悪な存在や不正に対し、自らの信じる正義を執行することにあります。

ソロモン・ケーンの外見は非常に印象的です。青白い顔と、見る者を射すくめるかのような凍えるような眼は、常に深くつばの広いスラウチハットの下に隠されています。その服装は徹底して黒一色で統一されており、彼の持つ暗く禁欲的な雰囲気を一層際立たせています。武装もまた特徴的で、接近戦用のレイピアとダガーに加え、当時の最新鋭であった二丁のフリントロック式短銃を常備しています。必要に応じて、より大型のマスケット銃を用いることもありました。

彼の冒険が進むにつれて、特異なアイテムが彼の武器庫に加わります。アフリカでの旅の途中で出会った、彼の友人となるアフリカ系のシャーマン、ン・ロンガから、彼は特別な杖を授けられます。この杖は、邪悪な力から使用者を守る力を持つだけでなく、効果的な武器としても機能する、ブードゥー教に関連する神秘的な道具でした。後の物語、例えば「The Footfalls Within」では、この杖が単なるブードゥーの道具ではなく、想像を絶するほど古くから伝わる力を持つ護符、「ソロモンの神秘の杖」であることが明かされます。この杖は、ケーンの冒険において、彼の信仰心や物理的な武器では対抗できない超常的な脅威に立ち向かう上で、非常に重要な役割を果たします。

ソロモン・ケーンの物語の大部分は、1920年代から1930年代にかけて人気を博したパルプ誌「ウィアード・テイルズ」に掲載されました。この雑誌は、ファンタジー、ホラー、サイエンス・フィクションといったジャンルを扱い、ロバート・E・ハワードの他の代表作であるコナン・ザ・バーバリアンなどもここで発表されています。ウィアード・テイルズに掲載されたケーンの短編は、彼の厳格な性格と、彼が遭遇する超自然的な恐怖や人間の悪意との戦いを鮮烈に描いています。

日本においては、彼の物語のいくつかが翻訳され紹介されています。例えば、「血まみれの影」(原題: Red Shadows)は、1928年8月の「Weird Tales」初出で、日本ではミステリマガジン2006年8月号に尾之上浩司氏の訳で掲載されました。「死霊の丘」(原題: The Hills of the Dead)は、1930年8月「Weird Tales」掲載後、1979年10月の月刊バルーンに大瀧啓裕氏訳で掲載されたほか、『ホラー&ファンタシイ傑作選 (2)』や青心社文庫の『ウィアード (2)』にも収録されています。「はばたく悪鬼」(原題: Wings in the Night)は、1932年7月「Weird Tales」掲載で、『ウィアード・テイルズ (3)』(国書刊行会)に今村哲也氏訳で収められています。「同志の刃」(原題: Blades of the Brotherhood)は、尾之上浩司氏訳で『ゴースト・ハンターズ完全読本』(洋泉社)に掲載されました。

また、ソロモン・ケーンの物語は、小説の世界を超えて他のメディアにも展開しており、2009年には彼の名を冠した映画作品『ソロモン・ケーン』が制作されました。この映画は、彼のキャラクターや世界観を新たな形で表現し、より広い層に彼の存在を知らしめる機会となりました。

総じて、ソロモン・ケーンは、ロバート・E・ハワードが創造したキャラクターの中でも、その特異な信仰心、外見、そして超常的な要素を含む冒険性において、際立った存在感を放っています。彼の物語は、今なお多くのファンに読み継がれ、ダークファンタジーや冒険活劇の古典として位置づけられています。

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