ソンガイ帝国
ソンガイ帝国は、15世紀後半から16世紀にかけて、ニジェール川の大きく蛇行する湾曲部を中心に、現在の西スーダンの広大な地域を支配した強力な黒人王国です（1464年-1590年）。その歴史は、支配者の宗教的・文化的背景によって性格が異なり、イスラム的な伝統を重んじる統治と、土着のソンガイ的な伝統を重視する統治が交互に現れたことが特徴的でした。
ソンガイ人の国家としての起源は定かではありませんが、ニジェール川中流域の北岸にあったクーキャという町を拠点に、「ザ王朝」と呼ばれる小さな王国を形成していたとされています。12世紀になると、より上流のやや北方に位置するガオに新しい首都を移しました。
新たな首都ガオは、サハラを越える塩の中継貿易ルートの要衝となり、銅山のあるダケッダを経由してエジプトやイフリーキヤ（現在のチュニジア周辺）からの物品、マグレブ西部や遠方からの隊商が集まる巨大な国際交易都市として栄えました。このガオ王国は、ディアまたはザと呼ばれる少数民族によって支配されていましたが、彼らはイスラム教徒ではなかったと考えられています。
13世紀末頃からは、強盛を誇ったマンディンゴ人のマリ帝国に支配される時期がありましたが、ガオはマリ帝国の中でも重要な商業拠点の一つとして発展を続けました。14世紀に入ると、アリー・コロンという人物がガオで新しい王朝を興しました。これが後にソンガイ帝国を大帝国へと発展させる基盤を築いたスンニ朝の始まりです。
スンニ朝の王、スンニ・マダウはマリ帝国との本格的な戦いを開始し、その首都ニアニに大軍を送り込んで大勝利を収め、多くの戦利品とともにマリ王が支配していた人々を獲得しました。その後のスンニ・スライマーン・ダアマも、マリ帝国の支配下にあったソニンケ地方の中心地ネマを侵略し、さらなる富をもたらしました。
そして1464年、スンニ・アリ大王が王位を継承します。彼は、父の代から引き継いだ有能な指揮官と、経験を積み結束力の高い精鋭軍団を持っていました。これには、ニジェール川を自在に操るヒー＝コイ率いる水軍、敵の残兵さえも吸収して拡大・強化された歩兵隊、そして高い機動力を誇る騎兵隊が含まれていました。
スンニ・アリ大王はこの強大な軍事力を用いてニジェール川流域を制圧し、重要な交易都市であるジェンネや、学術・商業の中心地であったトンブクトゥを次々と征服しました。さらにトゥアレグ族やモシ族を破り、帝国の版図はニジェール川中流域を中心に、現在のナイジェリア北部からセネガル川上流付近に及ぶ広大な範囲に拡大しました。彼は征服した地域を効果的に統治するため、コイやモンゾといった役職の地方長官を任命しました。大規模な運河建設計画は実現しませんでしたが、ニジェール川の水路網を整備し、農業の生産性向上に努めました。
1493年、スンニ朝最後の王スンニ・バルはアスキア・ムハンマド1世に敗れ、スンニ朝はその幕を閉じます。アスキア・ムハンマド1世が樹立したアスキア朝のもとでは、イスラム教の伝統がより重視されるようになりました。彼の息子たちが王位を継承し、アスキア・イスハーク1世の時代には、かつての支配国であったマリ帝国を攻撃し、その首都を略奪しています。
イスハーク1世は、サハラ交易で重要なテガーザの塩鉱の権益を巡って、北アフリカのサアド朝モロッコと対立しました。モロッコによる占領を阻止するだけでなく、トゥアレグ族の協力を得てモロッコ領内に侵攻する一幕もありました。
イスハーク1世の後を継いだアスキア・ダーウードの治世（1549年-1583年）は、ソンガイ帝国の最も栄えた全盛期でした。農業生産は向上し、サハラ砂漠を越える隊商貿易はかつてない規模となり、大西洋を舞台とするヨーロッパとの交易ルートにも匹敵するほど活発でした。国家の収入を管理するための国庫が整備され、多大な税収と国内で集められた穀物が王の倉庫に蓄えられていました。
アスキア・ダーウードはまた、学問や芸術の熱心な保護者でもあり、学者たちを厚遇し、彼らに多くの支援を与えました。さらに、貧しい人々への救済やモスクの改修にも力を入れました。テガーザの塩鉱の利権はダーウードの時代までソンガイ帝国が確保していました。
しかし、ダーウードの死後、その子のムハンマド3世の治世（1583年-1586年）にテガーザの塩鉱はモロッコに占領されてしまいます。ムハンマド3世の死後、後継者争いが勃発し、国内は内乱によって疲弊しました。最終的にイスハーク2世が王位を得ましたが、帝国の力は著しく衰えていました。
この混乱に乗じる形で、サアド朝モロッコは火器で武装した遠征軍を派遣しました。1591年のトンディビの戦いで、疲弊したソンガイ軍はモロッコ軍に決定的な敗北を喫し、帝国は翌1592年に滅亡しました。その後のソンガイの一部勢力は、「ソンガイ第二帝国」を称して抵抗を続けました。
起源と初期の国家
ソンガイ人の国家としての起源は定かではありませんが、ニジェール川中流域の北岸にあったクーキャという町を拠点に、「ザ王朝」と呼ばれる小さな王国を形成していたとされています。12世紀になると、より上流のやや北方に位置するガオに新しい首都を移しました。
新たな首都ガオは、サハラを越える塩の中継貿易ルートの要衝となり、銅山のあるダケッダを経由してエジプトやイフリーキヤ（現在のチュニジア周辺）からの物品、マグレブ西部や遠方からの隊商が集まる巨大な国際交易都市として栄えました。このガオ王国は、ディアまたはザと呼ばれる少数民族によって支配されていましたが、彼らはイスラム教徒ではなかったと考えられています。
マリ帝国の支配下からスンニ朝へ
13世紀末頃からは、強盛を誇ったマンディンゴ人のマリ帝国に支配される時期がありましたが、ガオはマリ帝国の中でも重要な商業拠点の一つとして発展を続けました。14世紀に入ると、アリー・コロンという人物がガオで新しい王朝を興しました。これが後にソンガイ帝国を大帝国へと発展させる基盤を築いたスンニ朝の始まりです。
スンニ朝の王、スンニ・マダウはマリ帝国との本格的な戦いを開始し、その首都ニアニに大軍を送り込んで大勝利を収め、多くの戦利品とともにマリ王が支配していた人々を獲得しました。その後のスンニ・スライマーン・ダアマも、マリ帝国の支配下にあったソニンケ地方の中心地ネマを侵略し、さらなる富をもたらしました。
スンニ・アリ大王の治世
そして1464年、スンニ・アリ大王が王位を継承します。彼は、父の代から引き継いだ有能な指揮官と、経験を積み結束力の高い精鋭軍団を持っていました。これには、ニジェール川を自在に操るヒー＝コイ率いる水軍、敵の残兵さえも吸収して拡大・強化された歩兵隊、そして高い機動力を誇る騎兵隊が含まれていました。
スンニ・アリ大王はこの強大な軍事力を用いてニジェール川流域を制圧し、重要な交易都市であるジェンネや、学術・商業の中心地であったトンブクトゥを次々と征服しました。さらにトゥアレグ族やモシ族を破り、帝国の版図はニジェール川中流域を中心に、現在のナイジェリア北部からセネガル川上流付近に及ぶ広大な範囲に拡大しました。彼は征服した地域を効果的に統治するため、コイやモンゾといった役職の地方長官を任命しました。大規模な運河建設計画は実現しませんでしたが、ニジェール川の水路網を整備し、農業の生産性向上に努めました。
アスキア朝と全盛期
1493年、スンニ朝最後の王スンニ・バルはアスキア・ムハンマド1世に敗れ、スンニ朝はその幕を閉じます。アスキア・ムハンマド1世が樹立したアスキア朝のもとでは、イスラム教の伝統がより重視されるようになりました。彼の息子たちが王位を継承し、アスキア・イスハーク1世の時代には、かつての支配国であったマリ帝国を攻撃し、その首都を略奪しています。
イスハーク1世は、サハラ交易で重要なテガーザの塩鉱の権益を巡って、北アフリカのサアド朝モロッコと対立しました。モロッコによる占領を阻止するだけでなく、トゥアレグ族の協力を得てモロッコ領内に侵攻する一幕もありました。
イスハーク1世の後を継いだアスキア・ダーウードの治世（1549年-1583年）は、ソンガイ帝国の最も栄えた全盛期でした。農業生産は向上し、サハラ砂漠を越える隊商貿易はかつてない規模となり、大西洋を舞台とするヨーロッパとの交易ルートにも匹敵するほど活発でした。国家の収入を管理するための国庫が整備され、多大な税収と国内で集められた穀物が王の倉庫に蓄えられていました。
アスキア・ダーウードはまた、学問や芸術の熱心な保護者でもあり、学者たちを厚遇し、彼らに多くの支援を与えました。さらに、貧しい人々への救済やモスクの改修にも力を入れました。テガーザの塩鉱の利権はダーウードの時代までソンガイ帝国が確保していました。
衰退と滅亡
しかし、ダーウードの死後、その子のムハンマド3世の治世（1583年-1586年）にテガーザの塩鉱はモロッコに占領されてしまいます。ムハンマド3世の死後、後継者争いが勃発し、国内は内乱によって疲弊しました。最終的にイスハーク2世が王位を得ましたが、帝国の力は著しく衰えていました。
この混乱に乗じる形で、サアド朝モロッコは火器で武装した遠征軍を派遣しました。1591年のトンディビの戦いで、疲弊したソンガイ軍はモロッコ軍に決定的な敗北を喫し、帝国は翌1592年に滅亡しました。その後のソンガイの一部勢力は、「ソンガイ第二帝国」を称して抵抗を続けました。
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