ソン・ハローチョ

ソン・ハローチョ：ベラクルスの伝統音楽

ソン・ハローチョは、メキシコ南部のベラクルス州で生まれた伝統的な音楽です。ベラクルス州の地理的、歴史的背景から、先住民、アフリカ、スペインの音楽が融合した独特の音楽として知られています。

起源と歴史

「ハローチョ」とは、ベラクルス地域の音楽スタイル、音楽そのもの、または音楽を奏でる人々を指します。「ソン」は音や噂を意味し、ソン・ハローチョは「ベラクルスの音楽」という意味になります。つまり、ベラクルスを発祥とする伝統的な民族音楽、またはフォーク音楽の一種なのです。

ソン・ハローチョの起源は、多様な要素が組み合わさって形成されました。

アフリカの影響: アフリカから連れてこられた奴隷や自由民の影響を受け、アフリカのリズムが取り入れられています。使用される楽器にもアフリカにルーツを持つものがあります。
スペインの影響: スペイン植民地時代の歴史的背景から、ロマ（ヒタノ）の音楽、つまりフラメンコの影響を受けています。
先住民の音楽: 元々ベラクルスに住んでいた先住民の音楽と、外部から流入してきた音楽文化が融合し、ソン・ハローチョが形成されました。

18世紀頃、ソン・ハローチョは農村集落間のコミュニケーション手段として用いられていました。また、植民地時代には、教会による文化矯正への抵抗として、ソン・ハローチョの歌が人々の心を鼓舞する役割を果たしました。しかし、その歌詞が支配体制にとって不適切と見なされ、弾圧・禁止された歴史もあります。

20世紀に入り、メキシコ革命を逃れてアメリカへ移住する人が増え、ソン・ハローチョはアメリカのメキシコ系アメリカ人コミュニティで広まりました。1940年代から1950年代には、ソン・ハローチョのヒット曲が生まれ、移民たちのルーツ音楽として、彼らに勇気と希望を与え、社会的地位の向上を促しました。1970年代には、ラティーノ系労働者の労働組合運動において、団結心を高める役割も果たしました。

21世紀のソン・ハローチョ

21世紀に入り、アメリカでソン・ハローチョは急速に普及しました。ベラクルスのバンドがアメリカで教えたり、アメリカのミュージシャンがベラクルスへ学びに行ったりと、伝統を継承しつつ、アメリカの音楽文化と融合しながら進化を続けています。メキシコ国内でも、再びソン・ハローチョへの注目が集まっています。

音楽的特徴とダンス

ソン・ハローチョは、アフリカのリズムに影響を受けた3拍子系のリズムが特徴です。

ソン・ハローチョに合わせて踊るダンスは「サパテアド」と呼ばれ、タップダンスとフラメンコを混ぜ合わせたような足捌きが特徴です。サパテアドは、ソン・ハローチョから独立した独自の要素でありながら、音楽の一部でもあります。サパテアドのリズムが、伴奏や歌を補完し、ソン・ハローチョの音楽を完成させるのです。

ベラクルス州南部では、ソン・ハローチョを楽しみ、地域住民の親睦を深めるイベント「ファンダンゴ」が今も続いています。人々は「タリマ」と呼ばれる舞台の上でサパテアドを踊ります。

使用楽器

ソン・ハローチョで主に使用される楽器は以下の通りです。

アルパ・ハローチャ: 32弦から36弦の小型ハープ
レキント・ハローチョ: 4弦の撥弦楽器
ハラナ・ハローチョ: 8弦から12弦の5コース・ギター。テルセラ、セグンダ、プリメラ、モスキト、チャキステの5種類があります。

特にハラナ・ハローチョは、ソン・ハローチョを代表する楽器として知られています。

その他、レオーナ（4弦のベース系楽器）、クラシック・ギターなども使用されることがあります。また、パンデロ・ハローチョ（タンバリンの一種）、キハーダ（ロバの顎の骨）、カホン、マリンボルなどの打楽器も使用されることがあります。これらの打楽器は、アフリカ音楽の影響を受けたものです。ミュージシャンがタリマを楽器として使用することもあります。

有名曲と関連ミュージシャン

ソン・ハローチョで最も有名な曲は「ラ・バンバ」です。ベラクルス出身の歌手で映画俳優だったアンドゥレス・ウエスカが、1940年頃に「ラ・バンバ」をヒットさせました。その後、1958年にリッチー・ヴァレンスがロック版としてカバーし、世界的な大ヒットとなりました。1987年には、リッチー・ヴァレンスの伝記映画『ラ★バンバ』が公開され、ロス・ロボスが歌ったバージョンもヒットし、「ラ・バンバ」はソン・ハローチョの代表曲となりました。

「ラ・バンバ」以外にも、「El Chuchumbé」などの古い有名曲があります。「El Chuchumbé」は、18世紀末に作られた歌詞が性的虐待問題を非難する内容だったため、異端審問にかけられ歌うことを禁止されたという歴史を持ちます。

1990年代には、カフェ・タクーバがソン・ハローチョとパンク・ロックを融合させた楽曲「El Aparato」を発表しました。ベラクルスのバンドとしては、Grupo Mono Blancoがよく知られています。2000年代には、オゾマトリがソン・ハローチョとヒップホップを融合させた楽曲を発表し、Quetzalなどもソン・ハローチョを取り入れた楽曲で知られています。

2010年代に入り、ラス・カフェテラス、ラ・サンタ・セスィリア、Radio Jarocho、ディヴィド・ワックス・ミューズィアムなど、アメリカ各地のミュージシャンやバンドがソン・ハローチョの音楽要素を取り入れた楽曲を創作したり、リミックスしたりするなど、ソン・ハローチョはジャンルの境界線を越えて進化を続けています。

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