ゾフィー・フォン・デア・プファルツ

ゾフィー・フォン・デア・プファルツ：ハノーヴァー朝の礎

ゾフィー・フォン・デア・プファルツ（1630年10月14日 - 1714年6月8日）は、プファルツ選帝侯フリードリヒ5世とエリーザベト（エリザベス）の五女として生まれました。ハノーファー選帝侯エルンスト・アウグストの妃であり、ハノーファー選帝侯ゲオルク1世ルートヴィヒ（後のイギリス王ジョージ1世）の母として、イギリス王室の歴史に大きな影響を与えました。彼女は、ゾフィー・フォン・ハノーファー、英語名ではソフィアとしても知られています。

激動の時代と王位継承

17世紀後半のイギリスは、清教徒革命、王政復古、名誉革命と、政治的に非常に不安定な時代でした。名誉革命以降、王位を継承したメアリー2世とウィリアム3世夫妻、そしてアン女王には、王位を継承する子がいませんでした。そのため、ゾフィーの母方の祖父がイングランドとスコットランドの王ジェームズ1世であり、ゾフィー自身がプロテスタントであったことが、彼女が王位継承者となる可能性を高めました。彼女の兄や姉たち、そしてその子孫がカトリックであったり、庶子であったりしたため、ゾフィーが最も適任と見なされたのです。

1700年、アン女王の17回目の妊娠が死産に終わり、唯一成長していたウィリアム王子も亡くなると、王位継承問題が深刻化しました。1701年、ステュアート家の血を引いており、カトリックではない者という規定が定められた王位継承法により、ゾフィーはアン女王に次ぐ王位継承権者に定められました。アン女王は1702年に即位し、1714年に崩御しますが、ゾフィーはアン女王より約2ヶ月前に亡くなっていたため、王位を継承することはできませんでした。代わりに、彼女の長男であるゲオルク・ルートヴィヒがジョージ1世としてイギリス王位を継承し、ハノーヴァー朝が始まりました。

ゾフィーの兄姉の中で子孫を残したのは、カール1世ルートヴィヒ、カンバーランド公ルパート、プファルツ＝ジンメルン伯エドゥアルトの3人だけでした。しかし、エドゥアルトはカトリックに改宗し、カール1世ルートヴィヒの嫡出子孫はカトリックのオルレアン公妃エリザベート・シャルロットの子孫でした。また、カール1世ルートヴィヒの他の子供やカンバーランド公の子供は非嫡出子であったため、イギリス王室の継承権は最初からありませんでした。結果として、ゾフィーとエルンスト・アウグスト夫妻が、イギリス王位継承権を持つ人々にとって最も近い共通の祖先となったのです。

生涯

ゾフィーは1630年、両親の亡命先であったオランダのハーグで生まれました。オランダで教育を受けた後、兄カール1世がプファルツ選帝侯としてドイツに戻ると、彼女も1650年にプファルツへ移住しました。数学、法学、歴史を学び、数か国語に堪能な才女として育ちました。当初、ブラウンシュヴァイク＝リューネブルク公ゲオルク・ヴィルヘルムと婚約していましたが、結婚前に天然痘で容貌を損ねたことが原因で破談となりました。その後、ゲオルク・ヴィルヘルムは愛妾と貴賤結婚したため、ゾフィーは深く彼を恨むようになりました。

1658年、ゾフィーはゲオルク・ヴィルヘルムの弟エルンスト・アウグストと結婚しました。当時のエルンスト・アウグストは、公位を継ぐ可能性が低い四男でしたが、権勢欲が強く、天然痘で容貌を損ね、結婚適齢期を過ぎたゾフィーとの結婚を決意しました。しかし、兄たちが嗣子なく亡くなったため、エルンスト・アウグストは父の遺領を相続し、1692年には選帝侯位を授けられました。夫婦関係は、夫が愛人を囲い、ゾフィーの才能を理解しなかったため良好ではありませんでしたが、ゾフィーは優れた政治力で夫を支えました。夫妻は共に権勢欲が強く、嫡男ゲオルク・ルートヴィヒの結婚相手に、ゾフィーの従弟であるジェームズ2世の次女アン王女を望みました。1680年にゲオルクを渡英させましたが、彼はアンの気を引くことができませんでした。

一方、エルンスト・アウグストの兄ゲオルク・ヴィルヘルムは、娘ゾフィー・ドロテアを嫡出子として認めることに成功し、彼女は莫大な持参金を持っていました。ゾフィーは過去の経緯からこの結婚に反対しましたが、持参金を前に容認しました。しかし、嫁姑の関係は良好ではありませんでした。姪のエリザベート・シャルロット（リーゼロッテ）とは仲が良く、彼女の世話をしたり、文通を続けたりしました。

1694年、嫁ゾフィー・ドロテアが不倫事件を起こすと、彼女の息子であるゲオルク・アウグスト（後のジョージ2世）とゾフィー・ドロテアを養育しました。ゾフィーは、孫のゲオルクからゾフィー・ドロテアに関するものを全て取り上げました。娘ゾフィー・シャルロッテは、プロイセン王フリードリヒ1世の妃となりました。娘の婚家であるプロイセン宮廷で、ゾフィーはブランデンブルク＝アンスバッハ辺境伯ヨハン・フリードリヒの娘カロリーネ（後のキャロライン）を見出しました。カロリーネは、後にイギリス王妃として、夫をよく助けました。

イギリス王位継承

ゾフィーは、自身がイギリス王位継承権を持っていることを自覚していました。しかし、イギリスの政局が不安定で、継承が確実ではない状況も理解していました。そのため、王位に関する発言は慎重に控えていました。それでも、ゾフィー一家の訪英を許可するか否かでイギリス国内で政治問題が起こり、1704年にマールバラ公ジョン・チャーチルがハノーファーを訪問した際には、訪英を思い止まるよう説得されました。1705年にはトーリー党がゾフィー招聘を提案し、アン女王の不興を買いました。ホイッグ党は、招聘に反対する代わりに、アン女王の死後、ハノーヴァー家がスムーズに王位継承できるよう取り計らいました。この間、ゾフィーは訪英に意欲を示し、息子ゲオルク・ルートヴィヒから窘められています。

1710年にイギリスで与党となったトーリー党には不信感を抱き、スペイン継承戦争でイギリスがフランスと単独講和を進めていることに反対しました。1714年4月に再度訪英を要請しますが、アン女王に反対され、高齢のゾフィーと健康が優れないアン女王との間で王位継承問題が緊迫する中、ゾフィーは6月8日に83歳で亡くなりました。その約2ヶ月後、アン女王も崩御し、息子のゲオルク・ルートヴィヒがジョージ1世としてイギリス王位を継承し、ハノーヴァー朝が成立しました。

子女

ゾフィーは以下の子供をもうけました。

ゲオルク・ルートヴィヒ（1660年 - 1727年） - ハノーファー選帝侯、イギリス王ジョージ1世
フリードリヒ・アウグスト（1661年 - 1690年）
マクシミリアン・ヴィルヘルム（1666年 - 1726年）
ゾフィー・シャルロッテ（1668年 - 1705年） - プロイセン王フリードリヒ1世と結婚
カール・フィリップ（1669年 - 1690年）
クリスティアン・ハインリヒ（1671年 - 1703年）
* エルンスト・アウグスト（1674年 - 1728年）

ゾフィー・フォン・デア・プファルツは、激動の時代を生き抜き、イギリス王室の歴史に重要な役割を果たした女性でした。彼女の生涯は、権力、結婚、そして複雑な政治的駆け引きが絡み合った物語として、今日まで語り継がれています。

もう一度検索