タイニイアリス

東京都新宿区にかつて存在した小劇場、タイニイアリスは、日本の現代演劇史において重要な一時代を築いた劇場の一つです。新宿という演劇の街の中心で、多くの才能がここから羽ばたいていきました。

歴史とその役割

タイニイアリスは、1983年に新宿三丁目の雑居ビルの一角に、小さな劇場としてその歴史をスタートさせました。この時期は、まさに日本の小劇場演劇が熱気を帯びていた「小劇場ブーム」の最盛期であり、その波に乗るようにタイニイアリスも注目を集める存在となります。当初の場所から、1995年には新宿二丁目へと移転し、新たな環境で活動を続けました。

この劇場が果たした最大の功績は、数多くの優れた演劇人を世に送り出したことです。いわば、若手や新進の演劇人にとっての「登竜門」として機能しました。新宿梁山泊を主宰する金守珍氏、演戯団コリペの李潤澤氏、少年王者舘の天野天街氏、燐光群の坂手洋二氏といった、今日の日本の演劇界を牽引するような才能たちが、タイニイアリスの舞台で自らの表現を磨き、観客と対峙しました。彼らにとって、ここは実験と挑戦を許される、貴重な創造の場だったと言えるでしょう。

国内の劇団の公演だけでなく、国際的な演劇交流にも積極的でした。海外から劇団を招き、演劇祭「アリスフェスティバル」などを開催することで、日本の観客に世界の演劇を紹介し、また日本の演劇界に新たな刺激をもたらす役割も担いました。

舞台を彩った劇団

タイニイアリスの舞台では、多様な表現を持つ劇団が公演を行いました。長期間にわたり活動拠点とした劇団もあれば、記念碑的な作品を発表した劇団もあり、そのラインナップは劇場の多様性を示しています。例えば、奇才・天野天街率いる少年王者舘は1988年から1998年まで、アングラ演劇の系譜を引く新宿梁山泊は1989年から1996年まで、それぞれタイニイアリスで精力的に公演を行いました。坂手洋二の燐光群は1988年に代表作の一つ「トーキョー裁判」を上演しています。他にも、Fuらっぷ斜（1990年〜1992年）、榴華殿（1990年〜1997年）、ク・ナウカ（1995年には「トリステナ-女に負けられない男たち」を上演）、そして閉館間際の2009年から2015年にかけてはゴキブリコンビナートなどが、タイニイアリスの舞台で独自の演劇世界を展開しました。

閉館、そしてその後

演劇界において確固たる存在感を示してきたタイニイアリスでしたが、惜しまれつつも2015年4月5日にその歴史に幕を下ろしました。約32年間にわたる活動を通じて、多くの人々の記憶に残る劇場となりました。

タイニイアリスが閉館した同じ場所には、2017年4月1日からシアター新宿スターフィールドという新たな劇場が開場しています。しかしながら、シアター新宿スターフィールドはタイニイアリスの運営を引き継いだものではなく、人的なつながりや資本的な関係は一切ありません。劇場としての空間は引き継がれましたが、タイニイアリスという名前とその歴史は、人々の心の中に刻まれることとなりました。

タイニイアリスは、単なる建物ではなく、活気あふれる小劇場ブームの中で生まれ、多くの才能を育み、日本の演劇シーンの一時代を確かに彩った、記憶に残る劇場です。

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