タイワンマス

タイワンマス（Oncorhynchus formosanus）

タイワンマスは、サケ目サケ科に分類される、台湾固有の淡水魚です。かつては台湾の珍味として知られていましたが、現在は保護動物に指定され、主に大甲渓の上流域に生息しています。

名称

日本語では「台湾鱒」と表記され、台湾語ではその桜のような模様から「桜花鉤吻鮭」と呼ばれています。

分布

かつてタイワンマスは、大甲渓上流域の6つの支流に広く分布していました。しかし、1980年代には七家湾渓のみに生息が確認されるようになりました。現在は、台湾西側を流れる大甲渓の上流、雪覇国立公園内の標高1800mから2000mの地点に限定的に生息しています。1930年頃には南湖渓や耳無渓などでも確認されていましたが、現在では七家湾渓の約5kmの区間のみとなっています。

形態

タイワンマスの体長は、吻端から尾鰭中央の切れ込みまで約30cmです。ヤマメなどと比較するとやや小型で、体色は黒っぽいのが特徴です。体側面には9個の黒い斑紋（パーマーク）が側線状に並び、背面には11から13個の黒い点があります。

分類

タイワンマスは、サクラマスの亜種とする説もあります。北半球に生息するサケ科魚類の中では最も低緯度（亜熱帯地域）に生息しており、学術的にも貴重な存在です。1917年に青木赳雄氏によって発見され、1919年に論文発表されました。約5万年前の氷期に寒流が台湾海峡を南下した際に、遡上した個体が何らかの理由で陸封され、現在に至ると考えられています。

生態

タイワンマスの生息域は、年平均水温が11℃前後、夏場でも16℃から19℃と冷涼な環境です。全ての個体が河川残留型（陸封型）で、水温15℃以下の台湾の河川にのみ生息します。産卵期は10月中旬から11月中旬で、成熟した雌は200から500粒の卵を産みます。卵の孵化には12℃以下の水温が必須です。産卵から約20日で卵が発眼し、11月末には孵化します。1年で体長約14cmに成長し、雄は当歳魚から、雌は2年目から成熟し産卵を始めます。寿命は4年程度と考えられています。

人間との関係

タイワンマスは、タイヤル族からは「サラマオマス」と呼ばれ、古くから食用として利用されてきました。原住民は、小さな魚体を残すために網の目を大きくしたり、成熟した雌を川に戻すなどの配慮をしていました。1938年、台湾総督府はタイワンマスの希少性を認め、天然記念物として保護するための施策を講じました。具体的には、他のサケ科魚類の放流禁止、繁殖期の漁獲禁止、河岸から300m以内の樹木伐採や地形変更の禁止、一部支流での禁漁などが実施されました。しかし、その後の発電ダムや砂防ダムの建設、流域の森林開発などにより、1980年代から1990年代初頭にかけて生息数は激減し、数百尾まで減少したとされています。特に支流に建設された砂防ダムが親魚の移動を妨げたことが、減少の大きな原因と考えられています。台湾では1983年に絶滅危惧種として扱われるようになり、1992年には生息地が雪覇国家公園に指定されました。

台湾における保護への動き

1984年に「珍貴稀有動物」に指定され、1989年には台湾の農業委員会が野生動物保護法に基づき絶滅危惧種に指定しました。1997年には、雪覇国立公園内の大甲渓上流部にタイワンマス保護所が建設され、生息環境の改善、魚道の整備、放流事業などの取り組みがなされました。その結果、2002年には生息数が4000尾程度まで回復しました。2001年には台湾の最高紙幣2000台湾元札のデザインに採用され、2006年には雪覇国家公園タイワンマス生息センターが運営を開始しました。2020年には、生息数は10000尾程度まで回復しています。

出典

礫段礫列理論を適用した台湾マス生息河川における魚道の基礎設計 (PDF) - 寒地土木研究所
Robert J. BEHNKE, 「A Note on Oncorhynchus formosanum and Oncorhynchus masou」『魚類学雑誌』 1959年 7巻 5-6号 p.151-152, doi:10.11369/jji1950.7.151, NAID 130004019408 （英文）

関連項目

台湾の生物

外部リンク

礫段礫列理論を適用した台湾マス生息河川における魚道の基礎設計 (PDF) - 寒地土木研究所
Robert J. BEHNKE, 「A Note on Oncorhynchus formosanum and Oncorhynchus masou」『魚類学雑誌』 1959年 7巻 5-6号 p.151-152, doi:10.11369/jji1950.7.151, NAID 130004019408 （英文）

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