タイ航空機爆発事件

タイ航空機爆発事件：空の安全を脅かした手榴弾

1986年10月26日、タイ国際航空620便は、バンコク発マニラ経由大阪行きというルートで飛行中、高知県土佐湾上空で突如爆発に見舞われました。この事故は、航空機の安全に対する認識を新たにする出来事となりました。

事件の概要

タイ国際航空620便（エアバスA300-600型機）は、乗員14名、乗客233名を乗せ、順調に飛行していました。しかし、午後8時頃、機体後部で突然の爆発が発生し、機内は急減圧に見舞われました。爆発により圧力隔壁が破損し、油圧系統も2系統が使用不能になるなど、機体は深刻な損傷を受けました。

機体は航路を大きく逸脱し、自衛隊の訓練空域に侵入。一時操縦不能となり、ダッチロール状態に陥りましたが、パイロットの懸命な操縦により、午後8時40分に大阪空港への緊急着陸に成功しました。

この爆発と機体の激しい動揺により、乗員3名と乗客11名が重傷を負い、95名が軽傷を負いました。事故機は納入されたばかりの新しい機体でしたが、応急処置後、バンコクへ回送され、後に運用に復帰しました。なお、当該機体は2008年に退役しています。

爆発の原因

事故発生当初、圧力隔壁の破損は、前年に発生した日本航空123便墜落事故と同様に、機体の構造的な問題が疑われました。事故機は導入から間もない新鋭機でありながら、事故の一週間前から与圧装置に不具合が発生していたという報告もありました。

しかし、徹底的な調査の結果、圧力隔壁の損傷は金属疲労ではなく、爆発物による破壊であることが判明しました。大阪府警の現場検証により、高性能爆弾が使用された可能性が高いと判断され、捜査が進められました。

その結果、乗客として搭乗していた暴力団山口組の組員が、手榴弾を密輸目的でマニラから持ち込んだことが明らかになりました。当初、組員は「トイレ内で誤って安全ピンを抜いてしまった」と供述していましたが、後に「手榴弾をもてあそんでいた際に安全ピンを抜き、元に戻せなくなったため、そのまま爆発させた」と自供しました。

刑事処分

組員は重傷を負っていたため、入院後に逮捕されました。航空危険行為等処罰法違反（航空機内の爆発物持ち込み）と殺人未遂の罪で起訴され、1988年3月に大阪地方裁判所にて懲役20年の判決が言い渡されました。

この事件が残した教訓

タイ航空機爆発事件は、航空保安体制の脆弱性を露呈し、手荷物検査の強化や機内における警戒の徹底など、その後の航空保安対策に大きな影響を与えました。また、乗客による危険物の持ち込みを防ぐための法整備も進められました。

この事件は、空の安全を守るためには、機体の安全性だけでなく、乗客一人ひとりの意識と行動が不可欠であることを改めて認識させる出来事となりました。

参考資料

事件・犯罪研究会 村野薫『明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典』東京法経学院出版、2002年7月。ISBN 4-8089-4003-5。

関連項目

ヤクザ
* ユニー航空873便火災事故 - 本事件と同様に、乗客が機内に危険物を持ち込んだことにより発生した事故。

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