タッキング

帆船の操縦技術：タッキング（上手回し）

帆船は、風の力を利用して航行する魅力的な乗り物ですが、風上に向かって直接進むことはできません。そこで、風上に向かって進むために重要な操縦技術が「タッキング（Tacking）」、日本語では「上手回し（うわてまわし）」と呼ばれるものです。

タッキングとは

タッキングとは、帆船が風上に向かって船首を旋回させ、風を受ける方向を左右に変える操縦のことです。これにより、帆船はジグザグに進みながら風上へ向かうことができます。この一連の動作は「ビーティング（Beating）」と呼ばれます。

タッキングは、帆船が風上へ進むための唯一の方法であり、帆走においては非常に重要な技術です。風上への移動が必要な場面では、この操縦を頻繁に行うことになります。

タッキングの必要性

帆船は風上へ直接進むことはできません。しかし、目的地が風上にある場合、タッキングは不可欠となります。例えば、右舷側から風を受けて右舷タックで航行している船がタッキングを行うと、左舷側から風を受ける左舷タックに変わります。

従来の帆船では、帆は風に対して45度の角度で設定されますが、ローター船では20〜30度と風向により近い角度での航行が可能です。タッキングの際には、可能な限り短い距離で新しいタックに移ることが重要になります。

ジャイビング（下手回し）との違い

タッキングとは反対に、船尾を風上に向けて回す操縦は「ジャイビング（Jibing）」または「ウエアリング（Wearing）」と呼ばれ、日本語では「下手回し（したてまわし）」とも言われます。ジャイビングは主に横帆の船で行われます。

タッキングの技術

タッキングは、ビーティングという風上へのジグザグ航法の過程で行われる具体的な操縦のことです。ビーティングでは、船は数回のタッキングを繰り返しながら風上へと進みます。

タッキングの定義

「タッキング」という言葉は、一般的には「上手回し」を意味しますが、一部では「風下にタック」という表現も使われます。これは、ジャイビングによるタックの変化を指すことがあります。

特に競技において、風下を「一直線に」進むよりも斜めに進む方が速い場合があり、風下をジグザグに進むことで、より速く目的地に到達できることがあります。また、うねりが真後ろから来る場合、風下に向かってタックすることで船の動きが安定することもあります。

ビーティング（風上へのジグザグ航法）

ビーティングとは、風上に向かって進むために、船がジグザグのコースを取る航法のことです。帆船は風上へ直接進むことができないため、ビーティングは不可欠な航法となります。

ビーティング中の船は、できるだけ風上に近い角度で航行します。この状態は「詰め開き（close hauled）」と呼ばれ、一般的な帆船では風上に対して35～45度程度まで近づくことができます。

タッキングの間隔

タッキングを行う際には、風を横切る移動を最小限に抑えつつ、風上への移動を継続する必要があります。そのため、船は定期的にタックを変え、風を横切る移動方向を反転させながら進みます。タッキングの間隔は、航行できる水域の広さによって変わり、狭い水路では数分おき、開けた海では数日おきに行われることがあります。

戦略

有利なタックと不利なタック

風上に向かって進む際、一方のタックがもう一方のタックよりも有利になることがあります。これは、風の向きが少し変わることで発生します。この時、有利なタックを可能な限り維持し、不利なタックでの航行時間を短くすることが、より速く目的地に到達する戦略となります。

風が進行を助ける方向に変わることを「リフト」、進行を妨げる方向に変わることを「ヘッダー」と呼びます。リフトが発生した場合は、そのタックを継続することが有利であり、ヘッダーが発生した場合は、反対のタックに切り替えることで有利な状況を作り出せます。

最善のコース

状況は常に変化するため、船員はどちらのタックが実際に有利であるかを常に評価する必要があります。そのため、「ヘッダーにおいてはタッキングせよ」という格言があります。これは、風向きが変化する前に両方のタックが等しい場合、いずれかのタックでヘッダーが発生したら、自動的に反対のタックがリフトになるため、有利なタックに切り替えるべきであるという考え方です。

タッキング対決

レースにおいては、風上への直線コースでタッキング対決が頻繁に起こります。この状況では、帆の調整やボートの操縦技術が重要となります。先行する船は、後続の船を乱気流の中に閉じ込めようとし、後続の船はそれを回避して、速度を落とさずに澄んだ空気の中で航行しようとします。

タッキング対決では、複数の船が近距離で何度もタッキングを繰り返すため、危険な状況が発生することもあります。各船長は、先行リードを奪い、澄んだ空気の優位性を確保しようとしますが、タッキングには速度や時間を失うリスクもあるため、戦略的な判断が求められます。