タップ・オシリス・マグナ神殿

エジプト北西部、アレクサンドリア県の郊外に広がるタップ・オシリス・マグナは、古代エジプトのプトレマイオス朝時代に栄えた重要な神殿複合体および都市の遺跡です。

紀元前280年から紀元前270年にかけて、プトレマイオス朝のファラオであるプトレマイオス2世によって建設されたとされています。この地には神殿だけでなく、同じ名を冠する都市も存在していました。古代の歴史家プルタルコスは、この神殿がオシリス神の墓を示す場所であると記しており、オシリス信仰において特別な意味合いを持っていたと考えられています。

紀元前332年にアレクサンドロス大王がエジプトを征服し、新たな首都アレクサンドリアを創建して以来、タップ・オシリス・マグナは特にコーアックの宗教祭儀において重要な役割を担うようになりました。紀元後2世紀から7世紀にかけて、この古代居留地には住宅や公共施設、水槽、教会などが整備され、人々が暮らしていました。ネクロポリスからは、石棺、ピラミッド、柱など多様な埋葬様式が見つかっており、当時の文化や社会構造を知る上で貴重な情報を提供しています。

古代においては、この都市はマイオレット湖の干上がった湖底に面しており、その立地からエジプトとリビア間の貿易における港湾としての機能を持っていた可能性が指摘されています。西からの商人は水運を利用して港へアクセスし、そこからキャラバンルートを利用できたと考えられています。リビアからの貿易品も、ここで船に積み替えられ、エジプト内陸部へ運ばれたかもしれません。ただし、この貿易港説には異論も存在します。また、この地域で生産されたワインも、当時の地中海世界で有名でした。

遺跡の中心部には、タテニア尾根と呼ばれる石灰岩の露頭があり、マイオレット湖と地中海を隔てています。ここには、1930年代に部分的に修復された二つの重要なモニュメントがあります。一つは、アレクサンドリアのファロス島大灯台の再建に影響を与えたとされる塔（アブシールの塔）であり、もう一つは、オシリス神殿の遺跡です。アブシールの塔については、灯台ではなくプトレマイオス時代に建てられた葬儀記念碑であったとする説が有力視されています。オシリス神殿は、クレオパトラの終焉の地である可能性も示唆されています。

近代における遺跡調査の始まりは、18世紀末にナポレオン率いるフランス軍がエジプトに上陸した際に遡ります。彼らはアレクサンドリア周辺とともに、タップ・オシリス・マグナの建築遺跡についても調査を行いました。その後、20世紀初頭にはイタリアの知事エバリスト・ブレリアによって本格的な発掘が開始されました。歴史家のカリストニスは、アレクサンドロス大王がシワのオアシスへ向かう途中にこの地を訪れた可能性に言及しており、ヘレニズム期に重要な都市が存在したことを裏付けるものとなっています。

1998年以降、様々な考古学者によって大規模な発掘調査が進められています。特に、考古最高評議会（SCA）のザヒ・ハワス博士とドミニカ共和国の考古学者キャスリーン・マルティネス博士が率いる調査チームが、クレオパトラとマルクス・アントニウスの墓発見を目指して集中的な調査を行っており、数々の重要な発見がありました。

2010年には、巨大なプトレマイオス王の頭部がない花崗岩像と、オシリス神殿の主要な門の一部が発見されました。ハワス博士によれば、王像のスタイルは、タップ・オシリス・マグナ神殿を建設したプトレマイオス4世のものである可能性が高いとされています。また、神殿の入り口に並んでいたと思われる石灰岩の基礎石や、ファラオ時代のスフィンクス像の特徴を持つ一連のスフィンクス像も見つかっています。

神殿の背後からは大規模な墓地が発見されており、ここからは多数のグレコ・ローマ世界風のミイラが見つかっています。初期の調査では、ミイラが神殿の方角を向いて埋葬されていたことが判明し、これは神殿に重要な王室人物、もしかするとクレオパトラが埋葬されている可能性を示唆するものとして注目されました。

ハワス博士らのチームはこれまでに27の墓を発見しており、そのうち20はアーチ型の石棺、残りの7つは階段を伴う埋葬室の構造でした。これらの墓からは合計10体のミイラが見つかり、うち2体は金メッキで装飾されていました。墓の様式がグレコ・ローマ時代のものであることは、この墓地が比較的新しい時代に使用されていたことを示しています。

マルティネス博士の調査では、アレクサンドロス大王の顔が描かれたコインや、神殿内部の深い縦穴（シャフト）が複数発見されています。これらのシャフトの一部は埋葬に使われた形跡があり、チームのリーダーたちは、クレオパトラとアントニウスがこのような深いシャフトに埋葬された可能性が高いと考えています。

さらに、この調査ではクレオパトラの美しい頭部と横顔が刻印された22個の硬貨も発見されました。これらのコインや彫像は、クレオパトラが魅力的な人物であったことを示しており、近年示唆された「醜い女王説」や「アフリカ系説」に反論する証拠となっています。また、アントニウス自身の肖像画に似た特徴を持つ、整った顎を持つ男性のマスクなど、他の興味深い遺物も発見されています。

2011年には、クレオパトラとアントニウスの墓探索の一環として、神殿および周辺地域のレーダー調査が開始されました。2012年には、この遺跡が第二次エル・アラメイン会戦の影響を受けていたことが判明し、不発弾やイタリア軍、ニュージーランド軍兵士の遺骨がトンネル内から発見されるという予期せぬ出来事もありました。一時的に発掘は中断されましたが、マルティネス博士は調査継続の許可を得ています。

2015年のドキュメンタリー番組では、マルティネス博士が墓である可能性の高い二つの縦穴の近くに新たな地下遺跡を発見したと報告しており、今後の発掘への期待が寄せられています。

タップ・オシリス・マグナ神殿は、古代の歴史的、宗教的な重要性に加え、クレオパトラの最後の安息の地である可能性が探られる現代の考古学において、極めて重要な位置を占める遺跡であり、今後の調査結果が待たれています。

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