タデスミレ

タデスミレ（蓼菫）

タデスミレ（学名：Viola thibaudieri）は、スミレ科スミレ属に属する多年生植物です。この草本は特に日本において独特の特徴を持ち、主に長野県内の山地に分布しています。タデスミレは有茎の種であり、通常、高さは20〜40センチメートルに達します。植物はおおむね緑色で光沢があり、地上に立ち上がって生育します。

特徴

タデスミレの最も特徴的な点は、葉の形状です。葉の基部はくさび状となり、そのまま葉柄に流れる独特な形をしています。また、この構造は日本のスミレ属の中でも本種にしか見られないものです。一方、地下茎は短く、複数の茎が集まって生えるため、群生を形成します。

その葉は、花期には存在しない根出葉と、茎につく下部の鱗片状の葉、上部についている互生の葉からなります。葉のサイズは長さ7-10センチメートル、幅1.5-2センチメートルと変化に富み、形状は披針形から狭卵形です。葉の縁には低い鋸歯が散在し、表面は鮮やかな緑色、裏面は淡い緑色をしています。

タデスミレの花は、5月から6月に咲きます。花期には、茎の上部から長い花柄が伸び、芳香を放つ花を形成します。花の色は白または淡紫色で、直径はおよそ1.5〜2センチメートルです。花びらは長楕円形で、先端がとがり、唇弁には紫色の細い条があります。この美しい花が咲く様子は、多くの自然愛好家にとっても魅力的な瞬間です。

果実は卵球形の蒴果で、特徴的な3稜があります。染色体数は2n=20で、遺伝的にも興味深い存在です。

分布と生育環境

タデスミレは日本では主に長野県に特有の植物で、特に山地の落葉広葉樹林の林縁に好んで生育します。かつては松本市や上田市でも見られましたが、上田市の個体は絶滅した可能性が高いとされています。現在、松本市内では多様な環境—落葉広葉樹林の下や湿ったカラマツ植林、さらには沿道に生育していることが観察されています。

近年、食害を引き起こしているニホンジカの影響が報告されており、タデスミレの生育環境が脅かされています。日本以外では、この植物は朝鮮半島中部でも分布が確認されています。

名前の由来

タデスミレという和名は、葉の形がタデの葉に似ていることに由来しています。この名は植物学者の牧野富太郎によって1909年に命名されました。また、学名の種小名「thibaudieri」は、植物採集家チボージェに由来しています。

種の保全状況

タデスミレは、絶滅危惧IB類（EN）として環境省のレッドリストに掲載されており、長野県ではさらに深刻な絶滅危惧IA類（CR）に指定されています。2020年2月には、国内希少野生動植物種に指定され、特に環境大臣の許可なくしての採取などは厳禁です。長野県の保護条例に基づき、この植物は特別指定希少野生動植物に指定され、さらなる保護対策が講じられています。

類似の種

タデスミレに似た種として、コウライタデスミレ（Viola websteri）が存在します。この種は朝鮮半島北部や中国大陸に分布しており、葉に明瞭な鋸歯や柱頭周辺が毛で覆われている点で異なります。

結論

タデスミレはその独自の形状と美しい花を持ち、重要な生態系の一部を形成していますが、絶滅の危機に瀕しています。保護活動が進められる中で、この貴重な植物が未来にわたって残り続けることが期待されます。

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