タノムサク・シスボーベー

タノムサク・シスボーベー（Thanomsak Sithbaobay）は、1965年1月8日にタイ東北部のマハーサーラカーム県で生を受けた元プロボクサーです。キャリア晩年にはカオヤイ・マハサラカムのリングネームでもリングに上がりました。そのボクシング人生は、高い実力を持ちながらも世界王座には手が届かず、「無冠の帝王」と称される波乱に富んだものでした。特に、WBA世界スーパーフライ級のトップコンテンダーとして、日本のスターボクサー、鬼塚勝也と二度対戦し、いずれも紙一重の判定に泣いたエピソードは、彼のキャリアを語る上で欠かせません。

タノムサクは1985年6月10日にプロデビューを果たしました。キャリアを順調に積み重ね、わずか9戦目となる1986年7月15日には、タイ国内のフライ級王座決定戦に出場し、判定で勝利して王座を獲得しました。その勢いは留まるところを知らず、同年10月15日には早くもOPBF東洋太平洋フライ級王座決定戦の機会を得ます。ここでインドネシアのアンブリ・サヌシを相手に4回KO勝ちを収め、東洋太平洋のベルトを腰に巻きました。このタイトルを一度防衛した後、1987年5月3日に行われた2度目の防衛戦で、日本の松村謙二と対戦しました。この試合は1-2という僅差の判定で敗れ、OPBF王座を失うとともに、タノムサクにとってプロキャリア初の黒星となりました。この時の判定結果には、タノムサク陣営が強く抗議するなど、地元判定ではないかとの議論を呼びました。

階級をスーパーフライ級に上げ、WBA世界スーパーフライ級でランキング1位にまで上り詰めたタノムサクに、運命ともいえる世界挑戦の機会が巡ってきます。1992年4月10日、空位となっていたWBA世界スーパーフライ級王座を懸け、日本の鬼塚勝也との対戦が実現しました。試合は、タノムサクが正確なクリーンヒットを再三浴びせ、序盤には鬼塚の右目上をカットさせるなど、試合の主導権を握っているかに見えました。しかし、ラウンドが進むにつれて採点は鬼塚有利となり、結果は0-3の僅差判定負け。惜しくも世界王座獲得はなりませんでした。この判定結果は大きな物議を醸し、会場からは「協栄マジック」「協栄判定」といった厳しい声が聞かれました。控え室に引き上げるタノムサクに対し、観客から「You are Champ（あなたがチャンピオンだ）」という声援が送られるなど、彼の健闘を称える声が多く聞かれました。この試合の判定は、スポーツ紙やボクシング専門誌でも多くの関係者が疑問を呈し、「疑惑の判定」として長くボクシング史に刻まれることとなりました。

最初の対戦から1年7か月後の1993年11月5日、タノムサクは再び鬼塚勝也との再戦の機会を得ました。前回の雪辱を果たし、今度こそ世界王座を手にするべくリングに上がったタノムサクでしたが、試合は前回同様の展開となり、またしても0-3の判定負けを喫し、三度目の世界王座挑戦も失敗に終わりました。この試合の採点についても、前回同様に疑問の声が多く聞かれ、翌日の新聞紙上では専門家からも異論が唱えられました。この二度にわたる鬼塚戦での不運な判定が、「無冠の帝王」というタノムサクの異名を決定づける要因となりました。

その後もタノムサクは現役を続け、1996年5月6日にはバンコクでシリモンコン・シンワンチャーとのWBC世界バンタム級挑戦者決定戦に臨みましたが、3回KO負けを喫し、ウェイン・マッカラーへの挑戦権獲得はなりませんでした。キャリアの終盤にはカオヤイ・マハサラカムのリングネームを使用し、1998年8月9日の千里馬哲虎戦が最後の試合となりました。この試合も4回TKO負けを喫し、遂に世界王座に就くことなくリングから去りました。

タノムサク・シスボーベーがプロキャリアで獲得した主なタイトルは、第17代OPBF東洋太平洋フライ級王座（防衛1度）です。彼はその実力と、特に日本での世界タイトルマッチで見せたパフォーマンス、そして判定に泣いたキャリアから、「無冠の帝王」として今なお日本のボクシングファンの間で語り継がれています。ちなみに、日本の元キックボクサー・プロレスラーであるタノムサク鳥羽のリングネームは、彼に由来すると言われています。

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