タルトゥ天文台

エストニアのタルトゥ天文台：歴史と現在

タルトゥ天文台は、エストニア共和国タルトゥ県タルトゥ市に位置する、タルトゥ大学に属する天文施設です。歴史的な旧天文台と、近代的な観測設備を備えた新天文台の2つの施設から構成されています。

歴史ある旧天文台：天文学の礎

1802年にタルトゥ大学（当時、ドルパト帝国大学）が再開されたことに端を発し、1805年には初代天文台長ヨハン・パフが自宅に観測機器を設置したのが始まりとされています。その後、仮設天文台を経て、1808年から1810年にかけてトーメの丘に恒久的な天文台が建設されました。

タルトゥ天文台の隆盛を築いたのは、フリードリッヒ・フォン・シュトルーベです。彼は、学生時代から天文台に通い、観測機器の導入や本格的な天体観測を開始しました。その後、教授、3代目台長に就任し、高精度の子午環や当時世界最大級のフラウンホーファー屈折望遠鏡を導入。3000以上の重星を収録したカタログ作成やベガの年周視差の測定など、数々の功績を残しました。シュトルーベの後、ヨハン・ハインリッヒ・メドラーが台長を務め、月面地図作成や優れた天文学啓蒙書『万人の天文学』の出版で知られています。

19世紀後半には、ロシア帝国による中央集権化政策の影響を受け、タルトゥ天文台は地方天文台へと役割が縮小。しかし、気象観測や地震学研究なども行い、多様な研究施設として機能していました。

エストニア独立後、初めてエストニア人台長が就任し、エルンスト・エピックがアンドロメダ銀河までの距離推定など、新たな研究成果をあげました。

近代的な新天文台：最先端の観測

第二次世界大戦後のソ連時代、エストニア科学アカデミーはタルトゥ市郊外に新天文台を建設（1958年着工、1964年完成）。「ヴィルヘルム・シュトルーベ天文台」と名付けられ、北欧最大の口径1.5mカセグレン式望遠鏡などを導入し、現代的な観測研究の中心となりました。

エストニア独立回復後、旧天文台はタルトゥ大学博物館の天文展示施設となり、新天文台はタルトゥ大学に返還されました。現在も、1.5mカセグレン式望遠鏡、60cmカセグレン式望遠鏡、31cmドール・カーカム式望遠鏡など、複数の望遠鏡を用いた観測研究、リモートセンシング、宇宙工学などの研究を行っています。

旧天文台の役割：歴史と教育の場

旧天文台は、現在、博物館として一般公開されています。シュトルーベの業績や、フラウンホーファー屈折望遠鏡などの歴史的観測機器が展示され、天文学講座や天体観望会なども開催されています。また、シュトルーベの測地弧の基点として、世界文化遺産にも登録されています。

新天文台の役割：現代天文学のフロンティア

新天文台は、タルトゥ大学理工学部傘下の研究機関として、天文学、リモートセンシング、宇宙工学の各分野で最先端の研究を行っています。北欧最大級の望遠鏡を備え、国内外の研究者と連携して、宇宙の謎解明に貢献しています。

タルトゥ天文台は、旧天文台の伝統と新天文台の革新性を兼ね備え、エストニアの天文学研究をリードする存在であり続けています。その歴史と研究成果は、今後も世界中の天文学者にとって貴重な財産となるでしょう。

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