ターラー

ターラー：インド神話における多様な存在

ターラーは、インドの宗教や神話において複数の文脈で登場する重要な女性です。その役割は多岐に渡り、神、母、そして物語を彩る登場人物として、様々な物語に深く関与しています。本稿では、インド神話におけるターラーの多様な側面について解説します。

インド神話におけるターラー：ブリハスパティの妻

まず、最も広く知られるターラーは、インド神話に登場する女神です。彼女は、聖仙ブリハスパティの妻として知られ、月神ソーマとの間に水星を象徴する神、ブダをもうけました。

ソーマがターラーを誘拐したことに端を発するブリハスパティとソーマの大戦争は、インド神話の有名なエピソードです。この争いは、ブラフマー神による仲裁によって終結し、ターラーは夫であるブリハスパティのもとへ戻りました。しかし、この出来事の際にターラーは既にソーマの子を身ごもっており、後に生まれたブダの美しさから、再びブリハスパティとソーマは父権を巡って争うこととなります。最終的に、ターラーはブダの父がソーマであることを明らかにしました。この物語は、神々ですら感情や争いに巻き込まれることを示し、インド神話における複雑な人間関係の一端を垣間見せています。

『ラーマーヤナ』におけるターラー：ヴァナラの女性

叙事詩『ラーマーヤナ』では、ターラーはヴァナラ（猿）の女性として登場します。彼女は水神ヴァルナの子であるスシェーナの娘であり、ヴァーリンの妻、アンガダの母として物語に重要な役割を果たします。ヴァーリンの死後、彼女はスグリーヴァの妻となり、ラーマーヤナにおける重要な出来事の目撃者、そして物語を彩る登場人物として描かれています。この文脈におけるターラーは、神ではなく、物語に深みを与える重要な女性キャラクターとして位置づけられています。

ヒンドゥー教タントリズムにおけるターラー：マハーヴィディヤーの一柱

ヒンドゥー教タントリズムにおいては、ターラーはマハーヴィディヤー（十大女神）の一柱として崇拝されています。この文脈におけるターラーは、強力な力を持つ女神として認識され、様々な儀礼や修行において重要な役割を果たしています。彼女の象徴や属性は、タントリズムの複雑な教えや実践と深く結びついており、神秘的な側面を強く持っています。

仏教におけるターラー：多羅菩薩

最後に、仏教においては、ターラーは多羅菩薩として知られています。多羅菩薩は、観世音菩薩の化身とされ、衆生を救済する慈悲深い菩薩として広く信仰されています。仏教における多羅菩薩と、インド神話やヒンドゥー教タントリズムにおけるターラーとの関係性は、宗教間の交流や思想の融合を示す重要な例となっています。

このように、ターラーは、インドの宗教や神話において複数の文脈で登場する、多面的で重要な存在です。それぞれの文脈におけるターラーの役割や性格は異なっていますが、彼女がインド文化に与えた影響は計り知れません。それぞれの物語におけるターラーの役割を理解することで、インド神話の深遠さと多様性をより深く理解することができるでしょう。

もう一度検索